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悪魔も喘ぐ夜
*


「ヒック…

 じゃあ、お兄ちゃんが内緒にしてること

ってなに?」


 涙を拭いながら麗が俺を見上げてきた。


「それは…」


 何も言わないのに気づいた麗に、気のせ

いだと押し通すか、あるいは適当なことを

言って誤魔化すか…。

 どちらにしても…と思う一方で、事実を

ありのまま話すという選択肢はない。


「お兄ちゃん?」


 麗の視線が答えを待っている。

 麗を安心させる答えを。 


「…いつか、ちゃんと話すから。

 今はまだ…」


 麗を抱きしめたまま、それだけ言うのが

精一杯の誠意だった。





 麗は暫く動かなかった。

 やがて短いような長いような沈黙を破っ

て、麗の声が耳に響いた。


「お兄ちゃん、ぼくのこと好き?」

「うん」

「ぼくをおいて何処にも行かない?」

「うん」

「じゃあね、お兄ちゃん…」


 強く抱きついていた麗が顔を上げた。

 夜目に慣れてきた目が闇の中に涙の残る

視線を感じる。


「キス、して?」

 その“キス”がどのキスか言わずともわ

かる。

「麗、それは…」


 狼狽えて顔をそむけようとしたら麗の声

が追ってきた。


「嘘じゃ、ないんでしょう?

 お兄ちゃんの言ってること、嘘じゃない

 んでしょう?

 だったら、してよ。

 嘘じゃありませんって神さまに誓って」


 俺のパジャマを握る手が震えていた。

 キスしてと繰り返す声が震えていた。

 俺を見る濡れた眼差しが不安の狭間で震

えていた。

 麗の歯車が……。


 嘘じゃないと言い切るなら、他意を含ま

ない誓いのキスは拒めない。





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