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悪魔も喘ぐ夜
*



 熱のせいでぼんやりする意識で穏やかな

夢の中を随分と長く漂った。

 時折浅い眠りの中から束の間寝覚めると

枕元には麗が眠っていて、時折兄貴の影も

垣間見れて。

 そうして長いこと起きてるのか眠ってい

るのか分からない時間を過ごしながら体を

回復させていった。

 ゆっくり回復していく体が眠り続けるこ

とに疲れ始めた頃から俺はようやく手を借

りてなら歩くことができるようになった。

 でも肝心の父さんとは時間が合わずに顔

を合わせることができずにいた。

 仕事が忙しいらしい父さんが帰宅する頃

には俺がもう眠っていて、俺が起きだす前

に父さんは出勤してしまっていたから。

 それでも父さんは麗に優しい伝言を頼ん

でくれていたから、俺はゆっくりと回復す

ることに専念することができた。

 ただ問題だったのは発熱して動けなかっ

た俺はともかく、その俺の看病をすると言

ってきかなかった麗まで連日学校を欠席し

てしまったことだ。

 学校側には父さんのほうから連絡してく

れたみたいだけど、大丈夫だったのだろう

か。

 そんな麗は今も枕元にいて、穏やかな寝

息をたてている。 

 俺がたまに目を覚ます時には麗はほぼ眠

っていて、こんな様子ではきっと学校でも

眠ってばかりいるのではないかという疑問

も浮かんだ。

 病院に行って検査してもらおうと言って

も麗本人がうんと言わないのだから今はど

うしようもないのだけれども。

 そうして俺が自分で歩き回れるようにな

るまでに数日の時間が過ぎていった。

 明日こそは学校に行かないと1学期の期

末テストまで本当にもう日がない。

 俺は新聞部だからほとんど関係はないけ

ど、運動部はテスト前の部活動停止日に入

り始めるだろう。

 俺はもともとテスト前日に一夜漬けする

ようなタイプではない。

 そんなことは勉強にうるさい兄貴が許し

てくれなかったから。

 ただテスト前に欠席し続けてしまったか

ら今回ばかりは辛いかもしれない。

 テスト範囲もとっくに発表されてしまっ

ただろうし、それすら知らないのはさすが

に痛い。

 加我や高瀬からも体調を気に掛けるメー

ルが入っていて、それに返信するついでに

登校したらテスト範囲を教えてもらえるよ

うに頼んだ。

 頼みはしたけど…もう一度学校に通うの

にはまだ障害がありすぎる。

 父さんはともかく、兄貴と麗は絶対にい

い顔をしないだろう。

 特に兄貴は実力行使に出る可能性が多大

にあった。

 あの夜のことを思い出すと今でも体が震

えるし、生まれて初めて兄貴を怖いと…明

確に怖いと感じた。

 けれど、それだけで今まで蓄積してきた

時間が全部嘘になるのかと言ったらそうじ

ゃない。

 確かにあの時の底知れぬ狂気を露わにし

た兄貴は怖いし体が震えるけど、昼間の明

るい部屋の中でちゃんと理論立てて喋る兄

貴はまだ怖いとは思わない。

 寝込んでいる俺の様子をそっと伺いに来

たらしい兄貴とは言葉は交わさなかったけ

れど、あの夜に見たどす黒い感情はその目

の内には見えなかった。

 だから大丈夫…だと思っている。

 また学校に通いたいと言って兄貴の逆鱗

に触れて乱暴をされない保証はないんだけ

ど、兄貴が反対しても麗が心配したとして

も父さんは俺の味方だよって言ってくれた

から。

 だから、きっと、大丈夫。


 隣でまだ眠っている麗を起こさないよう

にそっとベッドを抜け出す。

 ここ数日袖を通していなかった制服に着

替えてダイニングに向かう。

 ダイニングは焼けたトーストの匂いが漂

っていて、昨日までお粥くらいしかまとも

に食べてなかった胃が空腹を訴えて鳴いた。


「おはよう、駆」

「おはよ、父さん」


 さすがに父さんには聞かれたかなと恥ず

かしくて頬を掻きながら冷蔵庫へ向かう。

 昨日までほとんど寝て過ごしていたから

さすがに俺の分の朝食なんてテーブル用意

してなかったから。





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