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悪魔も喘ぐ夜
*


 先走りを零しながら上向くモノを擦り上

げる手を突然誰かの手が止めた。

 あともう少しなのに…と荒い呼吸の合間

に思ってしまったけれど、自分以外の手の

存在にハッと現実に引き戻された。


「随分と楽しそうですね、駆(かける)」


 熱の抜けきらない頭でも聞き慣れたその

涼しい声音に背が跳ねる。


 「麗しき生徒会長様」「氷のプリンス」

と噂されるその人は、白銀の髪を一つにま

とめ、スッと線をひいたような顔立ちで蒼

い目が印象的だが、近寄り難い空気を放っ

ている。

 容姿が日本人離れしているのは、母親が

イギリス人でそちらのDNAが優性遺伝し

たからに違いない。

 多少童顔なところはあっても平凡な日本

人の父親の血を強く受け継ぎ、どこからど

う見ても日本人にしか見えない俺とは雲泥

の差。

 初対面では絶対に信じてもらえないけれ

ど、この人は俺の実の兄 秀(すぐる)。

 そしてこの部屋の主、その人だ。


 動揺して動けないうちに先走りで濡れた

手を退かされた。

 子供の頃からこの2つ上の兄には勝った

事がなく、ムキになって言い返しても冷水

を頭からかけられるような応酬に、“兄貴

を怒らせちゃいけない”“兄貴に刃向かっ

ちゃいけない”と半ば刷り込みのように思

い知らされてきた。

 無断で留守中の部屋に入り、パソコンで

こんなDVDを観ながら言い訳のしようも

ないことをしていたと知られたら…それこ

そどんなことになるかなんて考えたくもな

いくらい恐怖だ。





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