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悪魔も喘ぐ夜
*


「確かに駆が一番甘く香るのはエッチの時

 やけど、欲求不満になっても香るんちゃ

 う?

 会う度に駆の匂い強くなっていってるし」

「でもそんなこと、兄貴も麗も言ってこな

 いし。

 クロードの気のせいだろ」


 首筋の傍に鼻先を近づけたクロードの吐

息がかかる。

 擽ったいの以上になんだかヤバイ気配を

感じて離れようとした。

 …クロードの逞しい腕にがっちりホール

ドされてできなかったけれども。


「半魔やから分からんだけやろ。

 …なぁ、ちょっとだけ味見してもええ?」


 二人のことをあっさりと切り捨てたくせ

に、隙間など許さないと言うように抱きし

める腕に力を込めてくる。

 その声に明らかにヤバイ空気が漂ってき

ていて、本当に今香っているのかはともか

くとして離れなければ不味いことになるの

は火を見るより明らかだった。


「最後まではしない約束だろっ?

 約束破ったらもう二度とクロードの言う

 ことなんか信じないからなっ」


 グイグイとクロードの胸を押しても無駄

みたいで、体格差と筋肉量にコンプレック

スを刺激されている間にやられた。


「あ…っ。

 コラ、クロードっ」


 耳を食まれてビクッと体が震える。

 俺の話を聞いているのかと問い質したく

なる態度だ。

 しかしクロードは食んだ耳を舐めてみた

り吸ってみたりして離す気配がない。

 耳にかかる吐息がゾクゾクと背中を撫で

て、流されちゃダメだと自分を叱咤する。

 そんな俺の耳にクロードの声が響いた。


「なぁ、白状してええ?

 本当は駆に嫌われるとか、誰が困るとか、

 全部無視して誰の目も届かん所に駆を浚

 ってしまいたいねん」


 切なげに響く声が今まで嫌と言うほど聞

き続けてきた言葉を呼び起こした。

 それは胸をざわつかせたが、何故だか今

すぐ逃げなければいけないような緊急性は

遠ざかっていった。


「欲しいと思たら何が何でも手に入れたな

 る。

 でもそうすればするほど、駆は逃げたな

 るんやろうなぁ」


 よくわからないけれど、クロードはクロ

ードなりに俺が答えられなかった“何か”

の答えに辿り着いたのかもしれない。


「でも駆が安心できるだけ距離をとったら、

 横からかっさらおうとする奴が居る。

 やから身ぃ引けんねん」


 もう俺が離れようと暴れないと気づいた

のか、それともクロードの気が済んだのか、

ふっと抱き締めている腕から力が抜けた。


「俺には駆と振り返るような過去はまだあ

 らへん。

 でも誰よりも確かな未来は約束できる。

 絶対に後悔させへんて。

 なぁ、俺にしとき?」


 体を少し離したクロードにつられて顔を

上げたけど…やられた。

 クロードの顔がものすごく近い。

 耳の奥で早鐘を打つ鼓動の音に俺の方が

戸惑う。

 俺の気持ちは最初から決まっていて、揺

るがなくて、だから変に緊張することなん

てないのに。


「俺は誰も選ばないよ…」


 吐息がかかりそうな距離にさりげなく距

離をとろうと顔をそらす。

 どうして誰も彼も選べと言うんだろう。

 誰も選びたくなんかないのに。





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あきゅろす。
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