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悪魔も喘ぐ夜
*


「じゃあ他に何かある?」

「他、かぁ…」


 クロードは今ただでさえ会社の事でバタ

バタしていてほとんど学校に来ないし、今

から気にしてみると言っても遅いだろう。

 というか、今の状況が続くならただの時

間稼ぎとしては充分なんじゃないだろうか

…なんて言ったら怒られるかな。

 会社がバタバタしているのは俺達の与り

知らぬところで人の動きがあるからで、ク

ロードがいる時に俺が多少の我慢をすれば

乗り切れるような気がするなんて他力本願

すぎるだろうか。

 
「やっぱり思いつかないな…。

 クロードに弱点とか似合わないっていう

 か…いや、ないはずはないと思うんだけ

 ど」

「敵観察が足りなさすぎですよ。

 どこまで平和ボケしているんですか、そ

 の頭は」


 …弱点の無さではクロードに引けを取ら

ない兄貴に言われたくない。

 俺が生まれた瞬間から兄貴はずっと傍に

いたはずだけど、兄貴の弱点なんて毎年無

くなっていっているような気がする。

 ゼロになる日も近いんじゃないだろうか、

たぶん。


「そんなこと言ったってさ…クロードに関

 する記憶って、あの変な能力で作られた

 部分もあるだろうし自信持って言えない

 んだよ」


 口を尖らせてせめてもの反撃をしたけど、

そんなのは言い訳にならないと兄貴の無言

の視線に刺された。


「うーん…困ったねぇ」


 そう言った麗の言葉の語尾に欠伸が混じ

る。

 すでに瞼は半分落ちていて、コクリコク

リと船を漕ぎだす麗の頭はもう起きている

のが限界なようだった。


「麗、ベッド行くか?」

「うん…。一緒に寝よ、お兄ちゃん…」


 絡められた腕にギュッと力が籠る。

 しかしそれを兄貴が黙って見過ごすわけ

がなかった。


「自分の部屋で寝なさい、麗。

 一人で眠れないほど子供じゃないでしょ

 う」

「添い寝してくれるってお兄ちゃんが言っ

 たんだもん。

 兄さんは黙ってて」


 低い声音で見咎める兄貴に怯まない麗は

これ見よがしに俺の腕に頬擦りしてくる。

 頼むから必要以上に兄貴を苛立たせるの

はやめてほしい。


「そんなにピリピリしなくても麗は何もし

 ないって。

 俺もそんなつもりはないし」

「では今まではそういうつもりで麗に触ら

 せていたんですか」


 聞き捨てならないと揚げ足を取った兄貴

が俺に矛先を向けてくる。

 仕置きだからと最初に無理矢理組み敷い

た自分はどうなんだと問い返してやりたい

けど、その後の応戦に惨敗するのは目に見

えていたのでぐっと飲み込む。


「そんなわけないだろ。

 とにかく麗は添い寝って言ったら本当に

 添い寝だけだよ。

 それでピリピリする兄貴のほうがおかし

 いだろ」


 大人げないとまでは言わないけれど、気

にしすぎだと兄貴に牽制をかける。


「それに…母さんが帰ってくるまではクロ

 ードを刺激したくない。

 いつクロードのチェックが入るのかわか

 らないのに、肌になんて触らせられない」

「待ちなさい。

 まだあの男に肌を晒すつもりなんですか。

 あんな脅しにもならない脅しに屈する必

 要はないとまだ理解できないんですか」


 “だから心配無用だ”と言いたかったの

に、兄貴の声が遮った。

 その声にはハッキリと苛立ちが滲んでい

る。


「いや、それは解ってるよ。

 解ってるけど、その手が使えなくなった

 らきっとクロードは他の手を考えてくる

 と思う。

 今のままなら母さんが戻ってきたら今の

 兄貴の言い分で押し通せるけど、それが

 できなくなったら困るだろ?」


 だからそれまでは何も気づいていないフ

リでクロードの悪戯で弄ばれているフリを

続けて時間稼ぎしていればこれ以上の悪化

はしない。

 兄貴も麗も頑として攻めたい主張をする

けども、下手にクロードを攻撃すれば隙を

突いて懐に突っ込んでくる可能性が多大に

あるのだ。

 ならば刺激せずに耐え忍ぶほうがいい…

と思う。

 そもそも俺にクロードの弱点を突くよう

な攻撃が出来るなら、最初からこんなに振

り回されていないだろう。

 決して威張れることではないけれども。





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あきゅろす。
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