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悪魔も喘ぐ夜
*


「そして、そんな証明もできない件を進学

 先や就職先に言ったところでどうにかな

 るとでも?

 証明が出来ないとわかっているなら、シ

 ラをきり通しても問題ありません。

 むしろ名誉棄損に抵触する行為ですよ。

 麗がどんな道を選ぶのかは知りませんが、

 少なくとも僕の進学先、就職先はその手

 の話を鵜呑みにするようなところではあ

 りません。

 返り討ちにあって痛い目をみるのは向こ

 うです」


 レンズの向こうの静かな目から獰猛な光

がスッと消える。

 それは目の前に並んだ難題を全て論破し

た時と同じだった。


「それで?

 そんな脅しにもならないつまらない話に

 踊らされて体を差し出す為に今までこの

 僕を無視してきたと?

 僕にはそちらのほうがよほど看過できま

 せんよ」

「え、えっと…」


 今度はその鋭い刃が俺自身に向けられて

言葉に詰まる。

 俺が一人で抱えていればいいんだと思っ

ていた。

 兄貴に話して逆鱗を逆撫でし、余計にこ

じれるくらいならこの体を差し出して丸く

収まるなら、と。

 とりあえずそうやって母さんが帰ってく

るまでやり過ごしていれば何か活路が見い

だせるんじゃないかと思っていたんだけれ

ども…。


 甘かった、と思う。

 バカだバカだという兄貴の言葉も黙って

聞くしかないなと肩を落とすくらいには。

 でもそれくらいじゃ兄貴は許してくれな

いだろうけど。


「で、でもさ…俺達半分は淫魔の血が入っ

 てるだろ?

 さすがに50年経っても今の姿のままだ

 ったら日本じゃ生きていけないと思うし。

 そういうの含めて面倒みてもいいって言

 ってくれてるのも確かだから」

「だったら何です?

 淫魔があの男の血族だけだとでも?

 少なくともあの男の手を借りずとも何の

 違和感もなく生活している淫魔が一番身

 近にいるじゃありませんか。

 あの男に頼るのも一つの道かもしれませ

 んが、それ以外の方法だって腐るほどあ

 るはずですよ」


 もうここまでくるとそれ以上返す言葉も

なくて、しかし冷え冷えとしたその目から

視線を外すことも出来ずに黙って聞くしか

なかった。


「嫌だと思えば拒否すればいい。

 必要ないと思えば交換条件を呑む必要も

 ありません。

 どんなにその頭が空っぽでも、僕に話さ

 えすればこんなに簡単に片付く話だった

 んですよ。

 それがどうして今までできなかったんで

 すか」

「う゛っ…」


 クロードに向かっていた矛先が本格的に

俺に向かう。

 もうここまでくるとぐうの音も出なくて、

どうにかして兄貴の矛先を収めてもらう方

法を考えるしかなかった。


「ん…」


 隣に座っていた麗が寝言のようなそうで

ないような声を出して俺の肩に凭れかかっ

てくる。

 添い寝の約束をしてはいるが、もうすで

にいつも麗が寝室に引っ込む時間は過ぎて

しまった。

 先にベッドに入っていていいと言ったん

だけど麗は俺の隣にいると言って聞かず、

俺が兄貴と話している間に眠ってしまった

らしい。





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