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悪魔も喘ぐ夜
*


 充分すぎるほどの沈黙が下りてから、内

心で悲鳴を上げる俺に向かって兄貴はよう

やく口を開いた。


「バカだバカだと思ってましたが、僕が思

 うより救いようがなかったみたいですね。

 その空っぽの頭は実際に危険が降りかか

 らないと解らないんでしょう。

 拘束したまま部屋から一歩も出さずに朝

 もなく夜もなく揺さぶってあげましょう

 か」


 ドクンッ


「いっ、いやいやっ。

 そんなのやりすぎだからっ!

 クロードだってそんな…」


 冗談じゃないと苦笑いで首をブンブン横

に振るが、兄貴の視線は本気の時にしかも

たないキレ味で俺を見据えてくる。


「あの男だけではないでしょう。

 いつ、どこで、誰に囚われても不思議で

 はない体なんですよ?

 それでも僕のいうことを聞かずに外出す

 るというなら、それがどういうことかそ

 の体に徹底的に教える必要があります。

 僕がどれだけ危険だと言っても解らない

 んですから、頭でなく体に叩き込むしか

 ないでしょう」

「うっ…」


 苦笑いすら凍りつく。

 兄貴の目が笑って誤魔化すことを許して

くれない。

 兄貴はやると言ったらやる。

 それは嫌と言うほど知っている。


「で、でもっ、そんなことしたらクロード

 に遅かれ早かれバレちゃうだろっ。

 兄貴や麗の進学や就職にだって響くしっ」

「だからバカだと言うんですよ。

 法に詳しくもないくせに、どうしてそん

 な誰も相手にしないような話で脅されて

 いるんですか」

「えっ…」


 焦ってまくしたてる俺に兄貴は冷ややか

に言い放った。

 眼鏡のブリッジを指で押し上げ、そのレ

ンズの向こうで小動物なら射殺せそうな獰

猛な光を宿す。

 兄貴の返事に驚きながらも、その目を見

てしまった俺の喉がヒクリと震える。


「僕も法の道を目指している端くれですが、

 そんなつまらない脅しなど聞いたところ

 で痛くも痒くもありませんよ。

 あの男が僕を傷害罪で訴えると言うなら、

 あの男がしたことは過剰防衛です。

 時間稼ぎの為のただの目くらましに、自

 己防衛だからと暴力をふるって怪我を負

 わせたらあの男にだって非があります。

 そもそも、あのホテルの事は事故で済ま

 せられたんですよ?

 僕の傷害罪を証明しようとするなら、ま

 ずそこから話を進めなければいけません。

 それをするつもりなら、あの件が事故で

 片付いたはずがないんです」


 あんなに俺を重く縛りつけていた言葉た

ちがどんどんその重さを失って軽くなって

いく。

 兄貴の言うことはいちいち尤もで、そん

な簡単なことにどうして今まで気づかなか

ったのかと…軽く頭を抱えたくなる。





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あきゅろす。
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