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悪魔も喘ぐ夜
*


「ではできますか?

 僕や麗の将来を盾にとられてあの男を拒

 むことが。

 やがてそれを手に入れて生活が安定して

 も、彼の握る脅しの材料が消えるわけで

 はありません。

 駆が家に戻るならあの件について周囲に

 言って回ると言われたらそれでも帰って

 こられますか?

 駆が自分さえ我慢すればいいと考えてい

 る間は、あの男はどこまでもそれを利用

 して付け上がりますよ」

「……」


 “それが出来るならそもそも最初に脅さ

れた時に屈していたりはしないでしょうけ

ど”と兄貴の目が言う。

 もうここまできたら言い訳など火に油を

注ぐだけの行為だ。

 兄貴の言い分に何か反論できるところが

あるのかというと…。


「でも、さ。

 クロードが本当に、本心でそう思ってる

 のかどうかなんて決めつけるのは…違う

 と思う」

「駆はあの男の肩を持つんですか?」

「ち、違うっ、けど…」


 スッと細まった兄貴の目に見つめられて

ブンブンと首を横に振る。

 でも“何が足りないん?”と俺を見下ろ

してきたクロードの眼差しにそんな打算が

あっただろうかと疑問が浮かぶ。

 クロードの言動は客観的に見たら兄貴の

言う通りなのかもしれないけど、計算高い

意地悪さも感じていないかと言われれば嘘

になるけど、それだけではないような気が

するのは本当にクロードにすっかり騙され

てしまっているからなんだろうか?とも思

うのも事実で。


 …ダメだ。

 こんがらがってきた。


 結局は誰も傷つけたくないと思うからこ

そ、それぞれが抱える事情に振り回される。

 みんなが幸せになれる未来を…なんて天

地をひっくり返せても無理だとわかっては

いる、けれども。


「兄貴には甘いって言われるかもしれない

 けどさ、やっぱり諦めきれないよ。

 だって俺は俺だから。

 兄貴の弟で、麗の兄で、普通の高校生で

 …。

 半分淫魔の血が入っているとか、フェロ

 メニアの体質だからとか…そういうのが

 あっても、やっぱり俺の中の何かが変わ

 った訳じゃなくて。

 だから…諦めたくないんだ。

 今まで当たり前だと思ってきた平凡な日

 常を。将来を」


 ずっと迷ってたんだ、どうすればいいの

か解らずに。

 それぞれに考えていることが違って、だ

からこそ何が最善か分からなくて、振り回

されて…そして見失っていたこと。

 自分が本当はどうしたかったのか。

 でも兄貴はそんな俺の言葉を冷めた吐息

で簡単に退けた。


「数千年先まで保ちそうなほど砂糖漬けの

 思考回路ですね。

 駆自身の内面が変わったかどうかじゃな

 いんですよ。

 その体質と、それを取り巻く周囲の状況

 が変わったんです。

 遠縁とはいえ、ほぼ他人であろう距離の

 相手に極秘にしていたはずの情報が盗ま

 れてしまった。

 そしてその情報を握って動き出した者達

 がいる。

 これは脅威なんですよ?

 たとえ今あの男に手を引かせても、これ

 から駆のフェロメニア体質が消えるまで

 どれだけでも起こりうる事態なんです。

 平凡な日常なんてもう二度と手に入らな

 いんだと、いい加減に覚悟しなさい」





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あきゅろす。
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