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悪魔も喘ぐ夜
*


「絶対に失いたくないんだ。

 これ以上傷ついてほしくもない。

 だからお兄ちゃんにダメって言われても

 僕はやめないよ」


 麗は清々しいほどの笑顔で言い切った。

 今回ばかりは俺の言う事でも聞かないと

既に心に決めているようだ。

 だからなのか、何となくわかってしまっ

た。

 麗が“絶対に失いたくないもの”が何な

のか。

 俺が必死に隠そうとしていることも、も

しかしたらもう既に麗は知っているのかも

しれないとさえ思える。


「でもね…勝手だってわかってるけどね、

 お兄ちゃんに嫌われるのが一番怖い。

 お兄ちゃんに反対されても絶対にやめる

 つもりはないけど、いけないことだって

 解ってるけど、お兄ちゃんに嫌われたら

 って思うと泣きたくなるほど怖くなる。

 だからね、我儘だってわかってるけど賛

 成してくれなくてもいいから今の僕の気

 持ちをお兄ちゃんに知っていて欲しかっ

 たんだ」


 反対されてもやめないと強気な言動はす

る一方で俺に嫌われるのが怖いと素直に弱

さを晒す麗のアンバランスさは、今の麗の

心の危うさを物語っているようだった。

 そんな麗になんと答えればいいのかわか

らなかった。

 黙って聞いてくれればいいと麗は言った

けれども、抽象的な話で具体的に何をどう

するつもりなのかさっぱり分からない。


「何をするつもりなんだ?

 麗のが傷ついたり今まで通り笑えなくな

 るようなことなんだろう?」

「秘密だよ。

 お兄ちゃんだって僕に隠し事してるでし

 ょ?」


 胸のざわめきを押さえられずに尋ねたら

ニッコリと笑ってそう返された。

 まるでもう既に俺の隠し事なんて気づい

ているようなのに、だから秘密だと言われ

ると何も言えなくなってしまう。

 これ以上追及すれば、俺自身も明かさな

くてはいけなくなる。

 麗はそれすらも見越しているようだった。

 こういう時にまったく隙がなくなるのは

やっぱり兄貴に似たんだろうかと思ってし

まう。


「じゃあ言っておくけど、麗がそんなこと

 になったら俺が辛いんだからな?

 俺が辛くなったら麗だって困るだろ?」


 こういう言い方はちょっと恥ずかしかっ

たけれど、麗は一瞬ぽかんとしてからクス

クス笑い出した。


「ううん。嬉しい」


 そう言って握っていた手を離してそのま

ま腕に抱き着いてきた。

 ぴったりとくっついたかと思うと肩口に

頬擦りまでしてくる。

 なんだかいつもの甘えたモードに戻った

ようでほっと胸を撫で下ろした。

 くっついて離れない麗の体温を心地よく

感じながら、アイロンはもう少し後回しに

することにした。





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あきゅろす。
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