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悪魔も喘ぐ夜
*


「あのね…きっとお兄ちゃんは僕が何を言

 ってるか分からないと思うけど、僕の話

 をただ黙って聞いて欲しいんだ」


 麗はいつもにはない静かな声でそう切り

出した。


「僕ね、とても小さかった時に友達を傷つ

 けちゃったことがあるんだ。

 僕を悪く言うなら我慢できたけど、僕の

 大好きな人を悪く言われて我慢できなか

 ったから。

 その子が他の子には知られたくなかった

 秘密をみんなの前で言っちゃったことが

 あって、その子はとても傷ついたと思う。

 だから僕ね、誰かの秘密を知ってしまっ

 ても誰にも話しちゃいけないんだって…

 誰にも話さないでおこうって思って今ま

 で気をつけてきた」


 ぽつりぽつりと麗が話し始めたことはき

っと誰もが一度は体験するんじゃないかと

思えるような話で、それを真剣に話す麗は

少し大人びた顔をしていた。


「誰かの秘密も夢も必要以上に干渉したり

 介入したりしちゃいけないんだって。

 それはずっと僕の中で正しい事だったし

 守らなきゃいけないことだった。

 だけど…」


 言葉を選ぶような沈黙がおり、俺の手を

握る手にも力が籠った。


「だけど、僕は僕の大切なものを守りたい。

 それが狡い方法でも、誰かを傷つける結

 果になっても、一番大切なものを失って

 までいい子でなんかいたくない」


 麗の決意を示すようにその視線は見たこ

ともないほど強い光を宿し、握り締められ

る手には痛いくらいの力が込められた。


「僕にできることがあるなら全力を尽くし

 たい。

 たとえそれで非難されることになっても

 何もしないまま失うよりずっといい。

 大切なものを守るためなら、僕は鬼にで

 も悪魔にでもなれるよ」


 俺の手を握り締める麗の目が口を開く度

に強く鋭く鋼のようなしなやかさをもって

いく。

 しかしそれは傍から見ててとても危うい

ように思えた。

 まるでこれから崩れ落ちるとわかってい

る橋に自ら突っ込んで行くような…。


「麗、さっきから何の話をしてるんだ?

 なんだか物騒なこと言ってるけど、麗が

 傷ついたり今までみたいに笑えなくなっ

 たりするようなことなら、俺は賛成しな

 いからな?」


 じっと牽制の意味を込めて見つめたのに

麗はそれで落ち込むどころか困ったような

苦笑いを浮かべた。


「じゃあお兄ちゃん自身はそういうことし

 てないの?」


 “そんなことあるわけないじゃないか”

 すぐそう返さなければいけなかったのに

まるで全てを見透かしたような笑みに見上

げられて、思わず口ごもってしまった。





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