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悪魔も喘ぐ夜
*




 その夜も 家のや中の空気は相変わらず

居心地が悪くて、俺は夕食と風呂を済ま

せるとさっさと部屋に引きとった。

 兄貴がまだダイニングにいる間に乾燥

機にかけ終わった衣服を畳んで部屋に届

けておかないと、後で気まずい思いをし

て届けなければならない。

 乾いた洗濯物の山から兄貴の分を先に

抜き取ってシワを伸ばすようにして畳む。

 アイロンがけしないといけないものは

別の山にして、とりあえず畳むだけでい

い洗濯物だけまだ主の戻らない部屋にサ

ッと置いてくる。

 兄貴がアイロンが必要な制服のシャツ

とかは兄貴がいつも通り 風呂入っている

間に届ければいい。

 …別に悪いことをしてるわけじゃない

のになんでこんなコソコソしなきゃいけ

ないんだとも思うけれど、皮肉や嫌味す

ら言わずにまるで空気みたいに無視され

ると胃の奥がキリキリと痛むから。

 リビングから持ち込んだアイロン台を

組み立て、水を入れたアイロンが温まっ

ていくのをぼんやりと待っていたら控え

目な音で部屋のドアがノックされた。


「お兄ちゃん、入ってもいい…?」


 返事をすると、ドアの隙間から麗がひ

ょっこりと顔を出す。

 もう夕食の片付けを終えたのだろうか。

 部屋に入ってきた麗は俺の隣に腰をお

ろした。

 しかし隣に座ったものの、麗は何をす

るでもなくただじっと視線を伏せていた。

 いつもならすかさず抱き着いてきたり

する麗だから、ただ隣に座って黙ってい

る麗に声をかけるタイミングを逃してし

まった。

 スチームのランプが点灯しアイロンが

高温になったのがわかったけれど、隣で

黙っている麗のことが気がかりでアイロ

ンには手を伸ばせなかった。


「あのね…手、握ってもいい?」


 まさかそんなことを聞かれるとは思わな

くて驚いた。

 いつもならそんな確認などせずにハグく

らい簡単にしにくるから。


「うん、いいよ」


 差し出した手を麗はまるで大事なものみ

たいに両手で包み込むように握ってきた。

 ただ手を繋ぎたいのだとばかり思ってい

たんだけれど違ったようだ。

 そして触れていなければ気づかない程の

小さな変化にようやく気付いた。

 麗の手が強張っている。

 まるで何かに緊張しているみたいに。





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