[携帯モード] [URL送信]

悪魔も喘ぐ夜
*





「はぁ…」


 次の体育の授業に備えて教室で制服から

体操着へと着替えている最中、知らず知ら

ず溜息が漏れた。

 毎日繰り返されるクロードの悪戯のせい

か、それとも家の空気がギスギスしている

のがストレスなのか、最近眠っても疲れが

とれない。

 睡眠時間は確保できているはずなのに眠

りが浅いのか、目覚めは必ず倦怠感を伴う。

 毎朝のように夢精の痕跡を処理しなけれ

ばならないのも苦痛だ。

 日常の中の一つ一つは些細な事でも、重

なって継続するとこんなにも精神を蝕んで

いくんだと知ってしまった。

 知らなくても良かったのに。


「桐生、具合悪いのか?」

「え?あぁ、いや…」


 いつまでもノロノロと着替えているから

だろう。

 加我が心配そうに声をかけてくれるけれ

ど、何でもないと笑顔を作って首を横に振

って返す。

 着替えを済ませて出ていく他の男子生徒

の群れに混じって加我や高瀬も出ていく。

 それを見送って俺もさっさと追いつかな

ければと体操服を頭から被った。

 殆どの生徒が体育館に向かう中、カイル

が教室に帰ってきた。

 今までどこかに行っていたようで、まだ

制服姿なのにいつも通りの無表情だ。

 しかし体育に出席するつもりならもう着

替え終って教室を出ていないと授業に間に

合わない。

 現に今、俺達を残して最後の男子生徒が

教室を出ていった。


「あれ…?カイル、クロードは?」


 確かクロードがカイルを連れて教室を出

ていったはずだ。

 クロードも制服姿で出ていったのだから

もう戻ってこないとおかしいはずなのに。

 一度目は聞こえてないフリで無視されか

かったけれども、それでも諦めなかったら

邪険な目を向けながらも答えてくれた。


「クロード様はお忙しい方だ。

 仕事で出向く用事があったから行かれた

 だけのこと。

 本来ならコートでボール遊びしているお

 前達に付き合う必要などない方だぞ」


 もうそろそろ予鈴が鳴る時間だというの

にカイルは急ぐ様子もなく制服のネクタイ

を外している。


「カイルはついてかなくてよかったのか?」

「あの方をサポートしているのは俺一人で

 はないし、クロード様からはお前を監視

 しろという命を受けている。

 それに従っているまでのこと」


 キッパリと言い切るカイルにはもう苦笑

いでしか返せない。


「監視なんかしなくても逃げたりなんかし

 ないのに…」


 逃げられるくらいなら、甘んじてクロー

ドの言いなりになったりしない。

 しかしピンと張りつめたカイルの視線に

刺されたら苦笑いのまま固まった。


「クロード様もどうしてお前などにこんな

 に時間を割かれるのか。

 さっさと鎖で繋いで本国に戻られれば、

 セシリアの動向になど左右されずにお好

 きなようになされるのに」


 本気で理解に苦しむという旨の発言に何

も言い返せなかった。

 クロードがその気になれば、きっとそれ

が出来るだけのカードをクロードは既に持

っているはずだ。

 俺よりもずっとクロードの傍にいるカイ

ルのほうがその辺りはよく知っているんだ

と思う。

 それでもそれをせずに、俺を泳がせるク

ロードの真意。

 それは俺には分からないけれども。





[*前][次#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!