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悪魔も喘ぐ夜
*


「お兄ちゃん…?」

「ごちそうさまっ」


 無言のままの兄貴の視線にも、心配そう

に見つめてくる麗の目にも耐えられなく

て、逃げるように席を立った。

 鞄を掴んで玄関から飛び出して、ようや

く朝食を食べ損ねたことを思い出す。


「途中で買お…」


 空腹を訴える腹に手をあてながら呟くと

走る気力もなくノロノロと歩き出した。

 今更なんで兄貴にあんな言い方しか出来

なかったんだろうという後悔が罪悪感と共

に押し寄せるけど、何か他にいい言い訳が

あったのかと考えるとやっぱり思いつかな

い。

 思いつかないからこそ、兄貴も怪訝な顔

をしていたんだろう。

 俺が何のつもりでそんなことを言い出し

たのかわからなくて。

 でも本当のことなんて言えない。

 今まであれだけの努力をしてきた兄貴に

そんなことは聞かせたらいけない。

 俺を助けたが為に大学も就職も希望する

ところには行けないかもしれない、なん

て…。


「はぁ…」


 もしも時間を巻き戻せるのなら、あの時

に戻りたい。

 兄貴がなんと言おうと誤解が解けるまで

話すか、ホテルを出るまで携帯には触らな

い。

 後でどんなに兄貴に嫌味を言われよう

が、こんな未来が待っているとわかってい

たらそのくらいは自業自得だと喜んで受け

てもいい。

 そのくらい切実に過去をやり直したい。

 どんなに戻りたくても過去には戻れない

けれども。

 やりきれない気持ちを溜息と共に吐き出

して、始業の前に空腹を満たそうとコンビ

ニへ急いだ。




「桐生、ちょっといいか?」

「うん…?」


 期末テストまであと一か月と迫ったその

日の放課後、一学期最後の校内新聞の記事

を書き終えて帰り支度をしていたところに

加我が声をかけてきた。

 声をかけてきたと言っても、ついさっき

まで一緒に記事を書いていたところだった

んだけども。


「今日は放課後忙しいか?

 早く帰らないとまずい?」


 母さんの不在はごくごく一部の親しい友

人にだけは伝えてあり、家事をこなさなき

ゃならないこともあって放課後の付き合い

が悪いのも見逃してもらっていた。

 加我はその辺りの事情を知っているから

まず俺の都合を確認してくれたようだ。


「いや…今日の当番は兄貴と麗だし、特に

問題ないけど?」


 食事や洗濯は当番制で回していて、いつ

も帰りが遅い父さんは買い出しやなんかの

出来る限りのサポートをするという形で母

さんのいない間もなんとか家を切り盛りで

きている。





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