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悪魔も喘ぐ夜
*


 母さんが前触れもなく消えたというのに

3人揃ってあまりにも呑気なものだから、

思わず言ってしまった。


「何か考えがあるにしたって、こんなのお

 かしいじゃないか!

 行先もどのくらいの期間なのかも、何も

 知らないっていうのになんでそんな平気

 な顔してられんの!?

 母さんが心配じゃないの!?」


 早朝から思わず声を荒らげてしまい、言

い過ぎたとハッとしたのは全てを言ってし

まってからだった。


「心配…まったくしてない訳じゃないよ。

 ただね、いつかはって予感はしていたん

 だ。

 母さんは父さんと結婚してから一度も里

 帰りしていないし、里帰りしたいとも言

 わなかったけど、それでも母さんにとっ

 ては故郷だから」


 誰も直接なんか聞いてない。

 聞いてないのに、何故か確信があった。

 母さんは故郷に帰ってるって。

 俺だって自分が何故母さんが実家に帰っ

ていると信じきっているのか不思議で仕方

ない。

 母さんは今まで帰省のきの字も言ったこ

とはなかったのに、かつて追放の身の上に

なったことも知っているのに、それでも母

さんは実家に帰ったんだと根拠のない確信

をもっている。

 自分で自分が分らなかった。


「母さんも落ち着いたらきっと連絡をくれ

 るよ。

 それまでこの家は4人で守ろう。

 大丈夫だよ。

 駆が思うより母さんはずっと強い女性だ

 から」


 “大丈夫よ”

 耳の奥で母さんの声が蘇ってくる。

 それ以上に全てを寛容に受け入れ、俺に

笑いかける父さんの顔を見ていたらそれ以

上何も言えなくてストンとダイニングの椅

子に腰を落とした。

 チンッと音がして、こんがりキツネ色に

なったパンがトースターから頭だけ飛び出

す。

 いつもならご飯に味噌汁という純和食が

朝食に並ぶのだけど、母さんが不在の今朝

ばかりはトーストにスクランブルエッグと

簡単な洋食がテーブルに並んでいる。


「ところで駆、どうして駆まで制服を着て

 るんですか?

 駆は当分家から出ないという話だったで

 しょう」


 ぎくっ


 さりげなく着替えてきたつもりだったの

に、兄貴は母さんの不在より俺の制服姿の

方を不信がって冷めた視線をよこす。


「だってもう2週間だしさ…あれから特に

 変わったこともないし。

 もうすぐ期末も近いから学校に行ってお

 かないとテストに響くし、出席日数だっ

 て…」


 最後の方の言い訳は付け足し付け足しだ

ったけれど、普段の兄貴なら俺が思うより

先に言い出すことだ。

 体調が悪くないのに欠席したり勉強を疎

かにするなんて、たとえ両親が許しても兄

貴だけは絶対に許してくれない。





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