悪魔も喘ぐ夜 * 「…うん」 Yes以外の選択肢がない。 ましてここは教室で、今はほとんど全て のクラスメイトの視線が集中している。 兄貴はそれに満足したように勝者の空気 を漂わせた。 そしてふっと顔を耳元に近づけてきた。 「僕から逃げるのは自由ですが、 家に駆の居場所は無くなりますよ?」 ドクンッ 心臓が嫌な音をたてた。 浮かべていた苦笑いさえひきつる。 氷柱を心臓に突き立てられたような…そ んな感覚。 「それが嫌なら“いい子”にしていること です。 “僕の言うとおりいい子に”ね」 顔を離しがてら額にキスをした兄貴はあ の夜と同じ目をしていた。 そしてそれはまるで気のせいだったみた いに姿をひそめた。 傍目には世話焼きなしっかり者の兄と、 うっかりしている頼りない弟とでも映って いるんだろう。 仲のいい兄弟だな、位に。 けれども、実際との温度差はこんなにも 激しい。 それが辛くて、息苦しい。 でも俺はそれをどうにかする術をまだも っていない。 [*前][次#] |