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悪魔も喘ぐ夜
*


 検査に向かう兄貴と別れて、俺はその足

で売店に向かった。

 こんなことになると思ってなかったから

大したものは買えないけどさすがに手ぶら

で行くわけにもいかないだろう。

 昼食までの軽い腹ごしらえと一緒に、何

か適当に買って持って行った方がいいよう

な気がした。

 店内を一周して漫画雑誌とフルーツゼリ

ーと菓子を買った。

 クロードの好みは分らないけど、気持ち

だけでも喜んでもらえないだろうか。

 エレベーターに乗って一般病棟の3階へ

向かい、ナースステーションの傍を通りか

かった看護師に声をかける。


「あら、あの茶髪の男の子の友達?

 327号室はここをまっすぐ行って、突

 き当りを右に折れたところよ」


 異国人の外見なのに滅茶苦茶な方言を話

すクロードはよっぽど印象深いらしい。

 一目見て同い年くらいだと思ったのか、

特に詮索もせずに教えてくれた。

 その看護師に礼を言い、お見舞いの入っ

たビニール袋を握り直して327号室に向

かう。


 え、個室…?

 兄貴、そんなヤバイ怪我させたのか!?


 327号室のプレートのすぐ下にはクロ

ードの名前だけが書かれている。

 つまりこの一番奥の部屋はクロード1人

しか入院していないっていうことだ。

 しかし個室なんてよっぽどの怪我でなけ

れば入院させてもらえないんじゃないだろ

うか。

 胸に渦巻き出した不安をかき消したくて

目の前のドアをノックする。


「はい?」


 返ってきたのは聞き覚えのない声で、思

わずもう一度プレートの名前を確認してし

まった。

 しかし何度見てもそれはクロードの名前

で、俺はドキドキしながらゆっくりとドア

を開く。

 出迎えたのは同い年くらいの見知らぬ青

年だった。

 しかしそのブロンドの髪やブルーの目を

見る限り、もしかしたらクロードの知り合

いかもしれないと思い直す。


「あの…ここってクロードの病室ですよ

 ね?」

「はい、クロード様のお部屋です。

 桐生駆様ですね。

 お待ちしておりました。

 どうぞ中へ」


 この青年もまた容姿に見合わず流れるよ

うな美しい日本語で丁寧に答えてくれた。

 しかもクロードだけでなく俺の名前を言

い当てた上に様付けまでされて驚く。

 なぜ名乗ってもいないのに俺のことを知

っているのか。


「あの、どこかで…?」


 しかしそもそも日本人じゃない知り合い

なんて片手で数えるほどしかいない。

 もしどこかで会っていたら、こんな整っ

た顔立ちの礼儀正しい青年を忘れるはずが

ないと思うんだけど。





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あきゅろす。
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