悪魔も喘ぐ夜
*
「あはは。そうだっけ?
母さんの弁当忘れるなんてうっかりして
たなー。
サンキュ、兄貴」
覚悟を決めたのに、いざ顔を上げてみる
とその笑顔がひきつるほど兄貴の視線は攻
撃力が高かった。
「まったくです。明日からは慌てずに僕と
一緒に登校しましょう。そうすれば忘れ
物なんてしませんよ」
親切そうな顔に貼り付けた笑み。
クラスの女子は騒いだが、直視されてい
る俺の背筋は冷や汗が流れそうだ。
「な、何もそこまでしな」
「いいえ。明日からは一緒に登校です。
僕だって受験生ですから時間が惜しい。
こうして母さんの弁当を届けている間に
数式が何問、英文が何行訳せたか…。
文句はありませんよね?」
最後まで言わせてもらえなかった。
しかも親切を盾に強行突破してきた。
言葉の上では同意を求めながら、もはや
それは明確な「命令」だ。
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