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悪魔も喘ぐ夜
*


「兄貴は怖くないの?

 理不尽だって思わないのかよ?

 なんでそんなに…前向きでいられるん

 だ…」


 言えば言うだけ自分の中の弱さとか醜さ

とかが溢れ出してきそうで俯いたら、頭に

ぽんと掌がのった。

 ワンテンポ遅れてそれが兄貴の手だと気

づいた。


「寿命だからなんですか。

 確かに寿命を超えてもピンピンと元気に

 過ごすお年寄りもいますが、病気や事故

 で亡くなる人だって多いんですよ。

 寿命と言うのは、あくまで身体的にどれ

 だけの時間を生きる能力があるかという

 物差しに過ぎません。

 そんなものに悲観して憂鬱な時間を過ご

 して、ようやく踏ん切りのついた次の日

 に車に轢かれて死んだら勿体ないじゃな

 いですか」

「まぁ…そうだけど」


 確かに長寿というだけで不死身だとは聞

いてない。

 でも悲観しているだけの時間が無駄だと

切り捨てるのなら、いつまでも愚痴ってい

る俺の姿は兄貴の目にはどう映っているん

だろう。


 底なしの馬鹿って、きっとそういうの含

めてなんだろうな…。


 好きで落ち込んでるんじゃないけど、で

もだからって兄貴みたいにスイッチ一つで

切り替えられるようにはできない。


「兄貴は、思わないの?

 ただの人間に生まれてきたかった、と

 か…」

「やれやれ…そんな無駄なことに費やす時

 間は1秒だってありませんよ。

 こんな日本人離れした容姿で今まで何一

 つ苦労してこなかったと思ってるんです

 か」

「………」


 そんなの、知らない。

 いつだって俺はカッコイイ兄貴と可愛い

麗の兄弟としてパッとしないと言われてき

たから。

 でも、いつだって羨ましいと思っていた

俺の気持ちを兄貴が知らないように、兄貴

の心労も俺にはわからないことなんだろ

う。


「それに…」


 頭の中で悶々としていたら頭にのってい

た掌がするりと頬を撫でて、兄貴の唇が耳

元に寄った。


「こんな体でなければ、駆のあんな顔は見

 られませんでしたしね」


 ドクンッ…


 心臓が変な音をたてた。

 鼓膜を擽る艶のある声色は、いつかの夜

の記憶をリアルに引きずり出してくれて耳

の先まで熱が駆け上がった。





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