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悪魔も喘ぐ夜
*


「あっ…!」

「かわええなぁ。

 このままほんまに浚ってしまおか」


 手の届かない場所に投げられた鞄を見な

がら思わず声を出してしまうが、クロード

は聞いていないのかブツブツと不穏な独り

言を呟いている。


「鞄返しにきただけじゃないのかっ?」

「かわええ駆に会いに来た」


 匂いだけでは足りなかったのか首筋に唇

まで押し当ててくるクロードに本来の目的

を思い出させようとしたが、鞄どころか俺

すら家に帰すつもりがないんじゃないかと

背筋が凍った。

 やはりこんな体で出てきたのは早計だっ

たのか。


「鞄返せっ。触るな、嘘つきっ」


 拳でその胸を叩くが上手く力を入れられ

なくてびくともしない。

 むしろ立っているだけで手一杯だったの

が抱き締められて体が寄りかかってしまっ

ている。


「やから…そないにかわええことしてると

 もう離さへんよ?」


 ギュッと俺を抱きしめる腕に力が籠り、

吐息が耳にかかる距離で艶っぽい声が響

く。


「嘘つき……」


 力づくて鞄を奪い返せない現状が悔しく

てその胸を叩きながら繰り返した。


「やから…嘘なんて言うてへん。

 そんなに返してほしいんなら鞄返したる

 けど…」


 “けど”と続けながらクロードの手が俺

の顔を上向かせた。


「ちゃんと俺の話聞いてくれへん?

 悪意をもって駆を騙したんやないちゅう

 話、ちゃんと聞いてや。

 誤解されたまま嫌われ続けるやなんて堪

 えられへん」

「誤解っ?

 俺が何度も頼んだのに聞いてくれなかっ

 たくせにっ!」


 誤解だと言うなら何故ちゃんと謝らない

のか。

 順番が逆だ。





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あきゅろす。
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