悪魔も喘ぐ夜
*
毎回“うまい、うまい”と他人のおかず
をもらう亮太に母さんお手製の卵焼きを一
口やった。
「駆の母さんの弁当美味いよなーっ。
明日も期待してるー！」
ちゃっかり明日の催促までする亮太にや
れやれと返事を返して、隣の教室に向か
う。
隣のクラスには新聞部の部員である清水
蓮（しみず れん）がいる。
部長である大倉先輩から言伝を頼まれて
いたからだ。
隣のクラスを覗くと、清水は窓際の席で
文庫本を読んでいた。
昼休みの喧噪の中なのに、そこだけ空間
を切り取られたようにカーテンを揺らす風
が彼女の長い髪を撫でた。
か、かわいい…。
まるで絵に描いたような美少女で、その
清楚なイメージに弱い男子連中の間で人気
になっている。
その輪の中に入るつもりはないけど、口
数が少ない彼女がまたにふわっと笑うと視
線が釘付けになってしまう。
「なーに鼻の下伸ばしてんの、桐生？」
いつの間にか見とれていたのか、すぐ傍
で見上げてくるトゲのある視線に気づかな
かった。
「なっ！？な、なんだよっ？！」
狼狽えて思わずどもる。
見上げてきているのは女子の中でも身長
が低めな牧村凛（まきむら りん）。
清水と仲がよく、よく一緒に居るけれど
性格は正反対で、小さいのに気が強いと言
った相手の足を無言で踏みつける凶暴さは
有名だ。
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