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悪魔も喘ぐ夜
*


「溺れる…?

 ただの体質、なのに…?」


「フェロメニアの“香る”は、花が蝶を誘

 うのとは次元が違うの。

 文字通り、虜にして溺れさせる香りだと

 教えられたわ。

 喩えは悪いかもしれないけれど…甘い中

 毒性のある薬を撒き散らしているような

 ものだって…」

「ははっ…中毒って…そんな…大げさ、

 な…」


 笑い飛ばせなかった。

 兄貴や麗を見ているとまさにそれではな

いか、と思えてきて背筋が冷たくなる。

 “体質”に意志が関係ないというのなら

“甘い、甘い”と俺をすすった二人はすで

に中毒を引き起こしていて、だから俺を何

度も求めるのではないか…。


「思い当たる、のね?」


 冷静な母さんの目がじっと俺を見たまま

確認してきた。

 その目を直視できなくて、目の当たりに

した現実がもう手遅れを示していて、俯く

ことしかできなかった。


「兄貴が…甘いって言ったんだ。

 あんなの甘いわけ、ないのに…。

 麗は…俺が気持ちよくなるとどんどん甘

 くなるって…」

「二人がそう言ったなら、駆のフェロメニ

 ア体質はそうやって表に出てくるのよ」


 そうだ。

 一人だったら気のせいとか、そういう風

に感じるだけ、で済ませられる。

 でも二人に同じことを言われ続けた。

 おかしいとは思いながら、状況が状況だ

ったから聞き流していた。

 だけど、母さんまで甘い香りがしたって

言うなら…。


 …そうか、二人はおかしくなかったの

か。

 おかしかったのは俺の体…。





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あきゅろす。
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