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悪魔も喘ぐ夜
*


 顎のラインを擽るように兄貴の指先が滑

った。

 目をそらしてしまったら負けを認めるよ

うで動けない俺に、兄貴はひどくゆっくり

とした声で確認する。

 まるで小さな小さな傷口に毒を刷り込む

ように。

 
「これからは僕のいう事を聞いていい子に

 …しますね?」

「……」

「駆、僕のいう事を聞いていい子にします

 よね?」


 歯車がどこで狂ったのか分からない。

 でもそれがどこか解っても、もう取り返

しはきかなくて。

 目の前でひどくゆっくりと答えを急かす

兄貴をなかったことにすることもできなく

て。


 “なんでたったそれだけのことで”が出

てこない。

 知られたら“それだけにこと”ですまな

い人がいるから。





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