悪魔も喘ぐ夜
*
淫魔―――…
生き物の精気を糧にして生きる闇の者。
時には吸血鬼(バンパイア)紛いのことを
する者がいるから間違われがちだが、生き
血のみを糧とする彼らとはルーツが遠い昔
に分かれている。
生き血はもちろん、精液、唾液、汗、涙
といった体液から生気を吸い取り糧とする
者…とり分け快楽を与える者達を総称して
淫魔という。
彼らは同族間で子を成し、血脈によって
その生を引き継いでいく。
一方でそんな彼らが喉から手が出るほど
追い求める存在がいる。
それが『魔魅香(フェロメニア)』と呼ば
れる、稀有な特異体質をもつ者。
これは突然変異でしか生まれず、人の間
にあってはただの人と同じだが、一度体質
が花開くと淫魔にとっては抗い難い香りを
放って誘惑するという。
また、その蜜を味わってしまえば禁断の
中毒症状を起こし、それ無しでは生きてい
けなくなり、過去に狂った死者を幾人も出
してきた。
魔の者たちはその稀有な体質をもつ者を
畏怖とそれを凌駕する欲望をもって『至高
の甘美』と呼ぶ。
では、そのどちらもを一つの体に秘めた
者がいたとしたら…
それは喜劇だろうか?
それとも悲劇だろうか…?
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