little garden ☆
〈9〉



スザクに送り出され、一足先に帰路につく。
先程のロイドとのやり取りを思い出しながらとぼとぼと歩いた。
気持ちさえあれば、他には何も望まない。互いにそう思えた時は本当に嬉しかった。でも…


二人でいる時には感じなかったモヤモヤが胸の中に溢れる。



スザクは俺を愛してる…
俺もスザクを愛してる…
俺達に足りないものはなんだ?


誰もが与えられるものを得られない…


悲しみでも嘆きでもない素朴な疑問。
常に物事を順序だてて考えるルルーシュだからこそ、その根本が気になっていた。


ロイド先生は俺達が初めての例だとそう言った。


これから印が表れるのかもしれないし…
もしかしたらもうずっと現れないのかもしれない…


答えのでないとりとめのない思考を巡らせながらただ目的地へと向かう。
暫くして辿り着いた我が家。



しかしルルーシュは自分が目指していた場所へ到着してはっとなった。



えっ………?



ふと見上げた景色には、何故か幼少期から弟と共に過ごした住み慣れた家が映っていたのだ。


ルルーシュの家は今はもうここではない。
彼のいるべき所はスザクの隣なのに…

なぜ俺はここへ来たんだろう。スザクと住む家に帰るはずだった…


そんな時、嘗ての我が家の前で茫然と立ち尽くすルルーシュに一人の少年が声をかける。



「兄さん?どうしたの!?」

驚いた様子で駆け寄ってきたロロは不思議そうな顔をしている。彼が驚くのもそのはず、ここへ帰ってくる予定など何も無かったのだから。そして、不思議だと感じているのはルルーシュもまた同じ。


理解できない自分の行動をうけルルーシュの思考には益々靄がかかった。


「どうしたの?忘れ物??」

何時もとは違うボーっと焦点の定まらない虚ろな目をしているルルーシュに心配そうな声で問いかける。

しかし、返事は曖昧で生返事のみ。
明らかにおかしい兄の状態にロロは取り敢えず中へ入ろうと彼を招き入れたのだった。



家の中はルルーシュが出ていったあの日と何ら変わらずそのままだった。
あまり日がたっていないため当然のことのようにも思えるが、それは意図的なもので、ルルーシュがいた形跡の全てが残されていた。


来るならそう言ってくれれば、準備したのに…
困った顔でそう愚痴る弟はとても愛らしい。
ソファにもたれ掛かるルルーシュに甲斐甲斐しく飲み物やちょっとした菓子などを振る舞った。


ロロが兄のために用意したコップに向かいから紅茶を注ごうとした時、少年はあることに気づく。



傷ひとつない白く美しい兄の首筋。
偶然目がいったその一点。


普通なら何でもないことだ。ただ綺麗だとみとれるだけ…
だが今は違う。




兄さん……?



あるポイントを凝視しながら動きを止めたロロの異変を察知したルルーシュは、何が彼をそうさせたのか直ぐに悟った。



「……変だろう?……ロイド先生もわからないんだってさ…」


まるで他人事のようにさらりと言ってのけるルルーシュにロロは更なる違和感を覚える。


「兄さん……?」


かける言葉を見つけられず、少年はまるで何も見えていないように宙を仰ぐ瞳を捕らえようとした。
しかし、兄の感情を読み取ることができない。


「こんなこと初めてだと言っていた……俺…きっとおかしいんだ…」



微かに溢した自嘲。
まるで自分のせいだと言わんばかりの言い方に、ロロはやっとルルーシュの心を感じとれた。


「スザクを…悲しませた…苦しめたっ……」



震える唇でそう呟く兄は深く傷ついたのだと…
やっと分かった。



兄さん…
悲しいんだ…
でもどうしてだろう…
兄さんがこんなにも苦しんでいるのに…


僕は…

どうしようもなく歓喜に満ち溢れている…


指先が、全身が震えるほどに嬉しい…



「ねぇ……兄さん…」


ソファに全体重を預け、脱力しているルルーシュに冷たい視線が降り注ぐ。
彼と同じ色の瞳。
感情を全て殺した不確かな色。



「………」


「兄さんの運命の人は……きっと………あの人じゃなかったんだよ……」


「…っ!!………ぁ……」


一度大きく見開かれた瞳孔は、間も無く力を失い閉じてゆく。



病的に白い青年の頬には一筋の雫が伝っていた…













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あきゅろす。
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