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夕暮れの町並みの中、オレは一行の先を一人すたすたと歩いていた。
そんなオレの後ろを小走りで着いてくる男。


「ねぇー青年ーっ」

「…」

「無視しないでよー」


オレは現在進行形でそいつを無視していた。
いや、でもオレは悪くない。

他の仲間達はやれやれ、と半ば呆れ顔で様子を伺っていた。
(…ジュディだけは楽しそうに見てたけど)


「ねぇちょっと、青年てば」

「うるせぇ着いてくんな!!」


後ろを振り返り、その人物に怒鳴った。
しつこい ムカツク ありえねェ!!


「そんな冷たくされると、おっさん泣いちゃう…」


よよよ…と泣き真似をするそいつ(通称おっさん)、判ってるくせに判ってないふりする辺りが最低に意地が悪いと思う。
いや、本当に判ってないのかもしれないが。

「今あんたと話したくない、だからオレに話しかけんな着いてくんな、判ったか?」

「えーでも俺様青年と一緒に居たいもん」

「オレは居たくない」


むすっとした顔できっぱりと答える。
自分でも大人気ないとは思う。
でも、嫌なモンは嫌だ。


「青年、可愛くないぞー」

「可愛くなくて悪かったな!!頼むから一人にしてくれ…」

「…」


オレがそう言うと、ふ、と立ち止まり踵を返して仲間達の所に戻って行くおっさん。

何か話してるみたいだった。
ちらりと振り返り横目で見ると皆各々別の所に別れて行く。
どうやら自由行動になったらしい。
オレはそれだけ確認すると、急ぎ足でその場を離れる。

今は、一人になりたかった。






胸の辺りがもやもやする。
そして確実に感じている不快感と憤り。

オレが何故こんな状態に陥っているのか、
話は数十分前に遡る。









「あら、レイヴンじゃない」

そう言って宿屋に向かう俺達に話しかけてきたのは、知らない女の人だった。
どうやらおっさんの顔見知りらしい。
親しげに話すおっさんを見て少し苛ついた。
(だってなんかそういう内容の会話だった)

ムカ、ツク


そこから先も同様に至るところで女の人に話しかけられるおっさん。
内容は以下省略だ。


だって普通に考えて、ありえないだろ…!?
一応、恋人の前で、あんな。
(ちなみにオレとおっさんが付き合い始めたのはほんの数週間前だ)


あっちから告白して来たくせに
何なんだよ…


オレはこの沸き起こる苛立ちの感情の名前を、知ってる。
悔しくて 苦しくて 醜い。
その感情を持つ自分が嫌だった。








ふと気付くと街の入口にある橋まで来ていた。
縁から橋の下を覗く。
オレにとって、この場所はもうあまり来たくない所だったのだが。


「…は、」


馬鹿らしくて笑える。
この場所で犯した罪よりも、先程の光景の方が澱んで心にのしかかってるなんて。


「馬鹿かオレは…」


あんなん、気にしなきゃいいのに。
…そう、いつもだったら気にしてない。
最近のオレはやっぱり何かおかしいと思う。
そんな事を考えていた、時、



「よォ、ねェちゃん一人かい?」





ぴくりと眉が動き眉間に皺を寄せる。
後ろから聞こえた低い男の声に、一気にテンションが下がった。

これは、何だ、オレに言ってるよな?
ちらりと回りを確認してみるが、他に該当する様なおぼしき人影はない。



「オレ、男だけど」


くるりと後ろを振り返ると、やたら図体のでかいむさくるしい男が居た。

「何だ、野郎かよ」

「悪かったな、ねーちゃんじゃなくてよ」


用が済んだのならさっさとどっか行け。
それだけ言うとオレはまた川の方に向き直った。
だがそいつが其処から動く気配はなく、絶えず背中に視線を感じる。


「…何だよまだ何か用か?」

そんなに見つめられると照れるな、と茶化す様に素振ると、いきなり手を掴まれた。


「なん…っ、何すんだよ!!」

「こんだけ別嬪なら別に野郎でもいいか」

「は…っ?何が、」

「俺とイイ事しようぜ」


ニヤニヤと笑う男を見てぞわりと鳥肌がたった。
ヤベェ こいつ気持ち悪い!!
って言うか危ない奴だ、そうオレの頭が警戒信号を出している。


「ちょっ、離せよ!!」

「ぐ…っ暴れんな、この野郎!」

「この野郎はこっちのセリフだ!!」


掴まれた手がぎしりと痛む。
畜生、この馬鹿力…!!
そんなやり取りをしてる内にも確実にオレは人気の無い所へ引き摺られていた。

こいつはちょっと、ヤバい


「や…っ嫌だ離せッ!!」

「大人しくしてたら優しくしてやるって」

「…ッ、…離せよ!!」



路地裏の様な所まで連れて来られ、壁に押し付けられた。
腕ががっちりホールドされている上に体重を掛けられ身動きが取れない。

ありえねェ こんな奴にヤられんのかよ?




「あ…くっ、」

「何だ、お前慣れてんのか」


へへ、と下卑た笑いを漏らす男。
ゆるりと尻を撫で上げられ快感に慣れた身体は敏感に反応し、嫌でも男の喜ぶ反応を見せる。

「ひ…っ、あ、」

「へェ…中々イイ声出すじゃねェか…」


興奮した息遣いの男に、そいつの昂りを押し付けられた。


「るせぇ…人の尻にんなモン押し付けてんじゃねェ、よ…!!」

「は、可愛くねェ野郎だな。そんな汚い言葉も出ないくらいに良くしてやるさ」


相変わらずニヤニヤと笑う男がオレの服に手をかけた時だった。












「誰が可愛くないって?」













同時に声のした方を見るオレとその男。
その瞬間に男の顔色が変わった。


「あ、あんた…」

「お前さん…誰のモンに手ェだしてんの?」

酷く低い声がその場を支配する様に響いた。
びくりと男の身体が反応する。



「…おっさ、ん」


見覚えのあるシルエット。
いつもよりも幾分か低いが、聞き覚えのあるオレの好きなその声。

嘘だろ?何で此処に
こんなところ一番見られたくなかったのに。







「わ、悪いレイヴンの連れだとは思…」

「離れろ」

「ほ、本当に悪かった!!けどまだ何も、」

「そいつから離れろ!!!」

「ひ…っ!!」


凄い剣幕のおっさんに、驚いた男がオレの腕を解放した。
自身に掛かっていた重圧がなくなり深呼吸をする。
そして確かめるように拳をニ、三度と握り締めを繰り返した。


「おい」

「え…」

「よくもやってくれたな…?」


にっこりと笑いながら拳をバキバキと鳴らし男に向き直る。
男の顔が青ざめた。


「わ、悪かったっ!許してくれ!!」

「…一回死んどけ!!」


バキッと気持ち良すぎる程に決まった左ストレートに若干スッキリした。
壁に打ち付けられた男はどうやら気絶したらしい。
オレの貞操は護れたが、まだ一つ問題が残っていた。
後ろから感じるこの視線、だ。



「…」

「あー…えっと、助けてくれてサンキュ」

「…」

「…お、オレもう行くから」


捨て台詞にその場を立ち去ろうとするも、案の定腕を掴まれた。
そしてそのまま引っ張られ、胸の中に閉じ込められる。


「おっさ…」

「…この馬鹿!!!」

「は、はぁ!?」


いきなり馬鹿呼ばわりかよ!
少し不貞腐れたようにおっさんを見た。


「な…」

今にも、泣きそうな顔。


「青年の馬鹿…っ!!」

「お、おっさん…?」


ぎゅうっと抱き締められる。
おっさんの体温が心地よかった。


「心配、したでしょーが…!!」

「あ…」

「おっさんが間に合ってなかったら、青年、ヤられちゃってたわよ…」

「…ごめ、ん」

「謝るところじゃないでしょ?」

「…サン、キュ」


はぁー、と大きな溜め息をつくおっさん。
(流石にちょっとムカツクぞ)



「…あームカツク!」

「…へっ?」


一瞬心中を読み取られたみたいで驚いた。


「なっ何が」

「…この男よこの男!!俺様のユーリにベタベタベタベタ触ってくれちゃって!!」

「は…」



それってつまり…



「青年の尻を撫でていいのはおっさんだけなのに!!」

「一言余計だっての」

「ぐはっ!! ひ、ひどい…」


軽く殴ると大袈裟なリアクションを取るおっさん。
いや、オレが言いたいのはそんな事じゃない。
つまり、だ。


「おっさん、妬いてた…?」

「当たり前でしょーが!自分の恋人が他の奴にヤられそうになってんのよ?」

「そうじゃなくて!!」


ヤられるとか言うのは置いといてくれ。


「オレが…誰かに触られてんの嫌だったか?」

「うん、そりゃね」

「オレも、」

「ん?」

「…おっさんと、知らねェ女の人が喋ってんの…嫌、だった」



最後の方は恥ずかしくて酷く情けない声になってしまった。
自分でも頬が赤くなっているのが解る。
ちらりとおっさんを見上げてみた。


「…なっ何て顔してんだよ」


何て言うか…言い表せない表情をしたおっさん。
とりあえず驚いた様子だった。
(別に、いいけど)


「だ…だって青年が…!!まさかヤキモチ妬いてくれるなんて…!!」

「お、オレだって妬くときゃ妬くんだよ!!」

「うんうん、おっさんは嬉しいわー」

「む、ムカツクぞそのニヤケ面…」


折角人が素直になったってのに…
なんかもうおっさんには敵わない気がする。


「んー、んじゃ青年、帰るとしますか!」

「ん…、ああ…おっさん…、ウザイ」

「何でよ!?」

「なんかルンルンしててウザイ」

「だって青年が可愛い事言うから♪」

「…ふっ」

「がふっ!! よ、横腹はやめなさい…」



ちょっとだけ、
ちょっとだけおっさんと繋がった様に感じた。



「ねぇ青年、帰ったらおっさんと一発…♪」

「…死ね!!」





おっさんが気絶している男のアレを踏んづけて帰っていた事に、オレは気付かない振りをした。








文句

(青年に可愛くないって言っていいのはおっさんだけなんだから)
(可愛いすぎて、可愛くないとか!)







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