ザウデ不落宮。
それがオレから全てを奪ったモノの名。
「僕はね、騎士団の部下よりも下町のみんなよりも、ユーリが一番大好きなんだよ!」
嬉しくないの?
そう言ってオレの手を握り締める金色の悪魔。
嬉しくは、ない
「…嬉しい」
だけどここは「嬉しい」って答えるところ
「よかった ユーリも僕が一番好きだよね」
そう、< ユーリ > だったら、
「ああ、一番好きだよ」
「さあご飯にしようか、ユーリの好きなものをいっぱい作ったんだ」
「ああ…」
< ユーリ >とは気があわない
判らない
何時だったか、オレはザウデと言う場所から海に落ちた。
目が覚めた時に感じたものは、腹部の痛みと妙にスッキリした感覚。
オレは目の前に居る赤い男が誰なのか、知らなかった。
否、判らなかった。
どうやら転落したショックからの記憶喪失らしい。
寝かされていた部屋を出たオレに、駆け寄って話しかけて来た桃色の女に「誰だ?」と聞くと、信じられない、と言った顔をして泣き崩れた。
傍に居た犬も同様に哀しげに鳴いた。
< オレ >はこいつらにとって余程大切な存在だったらしい。
後に会った、仲間、と言うやつらも、桃色の女と同じ表情を浮かべ呆然としていた。
そんな顔を見て少し胸が痛んだ。
(だって、本当に判らないんだ)
そして一番問題だったのが、
目の前にいるこの金色の男だった。
名前はフレンと言うらしい。
どうやら< オレ >はこの男と恋人同士だったようだ。
他の奴ら同様、オレの「誰だ?」と言う質問に目を見開き、何を言ってるんだユーリ、と返して来た。
(オレはオレの名前がユーリと言う事すら覚えていない)
それからだ。
『嘘だよね?』
そう言って綺麗に微笑むその男。
その笑みが綺麗だと思った。
『ユーリが僕を、忘れた、なんて』
そんなの、
『許さないよ』
次に見た笑みは、信じられない程に冷たく恐ろしかった。
そしてオレは金色の悪魔に捕まった。
「いただきます…」
ドキドキしながら今日も箸を取る。< ユーリ >でいてほしいと思ってるのにこの男は、フレンは罠をしかけてくる
(ハンバーグ クリア、人参は残す オレもキライだけど)
< ユーリ >と< オレ >の違うところを捜してる
(タマネギ クリア オレはキライだけど)
いつもいつも考えながらの食事。
正直食べてる気がしない。
「…食べないのか?美味しいぞ」
「僕はいいんだ」
じっとオレを見つめてくるフレン。
こいつはいつも< ユーリ >を捜してる
「ねぇ、それ、好き?」
煮物の椎茸を箸で取った瞬間にフレンに話しかけられ思わずピク、と反応した。
「……ああ」
(椎茸はクリア、のはず、)
オレはキライだけど、そう思い箸を口に運ぶ。
「うそ ユーリ椎茸は焼いたのしか食べないだろ」
ああ しくじった。
やってしまった。
「ユーリは、椎茸は焼いたのしか食べないんだ いいね?」
オレを睨みながらバン、と机を叩くフレン。< ユーリ >になれるのは、オレだけ。
「……ああ」
ごめん、そう返事をしてオレは言われた事を頭に記憶した。
何故だろう。
キライなのに 嫌なのに 逃げたいのに、
この男が悲しそうな顔をする度に、胸が締め付けられそうになる。
申し訳なくてたまらない。
そんな顔、見たくないんだ。
だからオレは今日もここにいる。
こいつの望む< ユーリ >になる為に
こいつの喜ぶ顔を見る為に
(あぁ 何だかんだ言って< オレ >もこいつが好きなんだろうか。)
好きの反対の、反対
(< ユーリ >の気持ちが、少しだけ判った)
どうしても書きたかった
愛無しパロ。
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