「…ッ!!」
「んっ、はぁ…!!」
己の舌に走った痛みに思わずユーリから唇を離す。
口内にじんわりと広がる鉄臭さに眉を寄せた。
(…噛まれた、のか)
明らかなる拒絶の反応に悲しく思う反面、少し安心している自分がいた。
もしあのまま続けていたなら、きっと僕は自分の欲望を抑えられなかっただろう。
無理矢理行為に及んで、彼を更に傷つけていた。
「ユーリ…」
「…」
未だ肩で息をしながら下を向いているユーリを見つめながら呟くように彼の名を呼ぶ。
表情は伺えないが、きっと怒っているだろう。
無理矢理こんな事をした僕に、
親友だと思っていた僕に、裏切られたと言う事実に対して。
「…すまない」
「…ッ」
「許してくれとは言わない。でもユーリ、僕は、」
パシン、と乾いた音が部屋に響いた。
同時に頬に走るビリビリとした痛み。
「…謝るくらいなら最初っからするんじゃねェよ!!!」
そう言って僕の方を睨んだユーリの顔は赤く、今にも零れそうな程の涙が瞳に溜まっていた。
「何で…っ、こ、な…」
「ユーリ…?」
「俺の気持ちも知らねェくせに…!!」
ああ、泣かせてしまった。
ユーリの大きな瞳からぽろぽろと涙が溢れて白い頬を伝う。
それを見た瞬間、ユーリの身体を抱きしめていた。
彼も僕を拒絶せず、すがるように僕の背中に手を回してくれた。
「オレ…がッ、今日此処に来た理由、は、」
「うん…」
泣きながらでは上手く話せないのだろう、詰まりながら紡がれる言葉を、僕は聞き逃さないように耳を向け、ぎゅう、と彼の身体を抱きしめる腕に力を込めた。
「オレの気持ち…、お前に、ッ」
「ユーリの、気持ち…?」
ユーリの僕の背中に回っている手が、僕の服をぐしゃりと掴んだ。
そして僕の胸元に顔を埋めてぼそりと呟くように心中を明かした。
「オレはお前が…フレンが、」
好き、だ
「…え」
「親友とかって、意味でじゃ、ねェからな…」
その言葉で僕の思考は停止した。
顔に熱が集まっていく。
「それ…って、」
「…その、だから、一人の男として…」
「…っ!!」
嘘だ。
だって、ユーリが、
僕を?
こんな、
「…ユーリッ!!」
「うわっ!!馬鹿、痛ェよ!」
ぎゅうっと力を込めてユーリを抱き締めた。
もう離さないとでも言う様に、
「僕も…、僕も、君が好きだユーリ!!」
「…は、」
「愛しくて愛しくて仕方ないんだ、」
「なん…、フレン…?」
「愛してる、ユーリ」
「な…ッ!!」
馬鹿か!と真っ赤になって僕の髪の毛をぎゅっと引っ張るユーリ。
これはちょっと痛かった。
…でも、
「嬉しい、な」
ふ、と口元に笑みが零れた。
「…は?何が、」
「だって、ユーリと両想いだったなんて」
「…ッ!!おまっ」
良く恥ずかし気もなくそんな事言えるな…、そう呟いたユーリの赤い横顔も、若干嬉しそうに見えたのは僕の自惚れじゃないと思う。
「ユーリ…」
「…何だよ」
「もう一度、キスしても良い?」
「な…っ!んな事、聞くな!!」
「ははっ」
じゃあ、するから。
そう言って彼の唇を奪った。
「んっ、ふれ…」
「…もう噛まないでね?」
僕のその言葉に赤い頬を更に赤くして
ばぁーか、と言って笑う彼は至極美しかった。
嗚呼、雨が止んだ気がした
(僕の心に、光が射し込んだ)
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