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熱平衡
「うわっ、ちょー寒ィ!」


校舎を出た途端に吹き付ける北風に陽介は首を縮めた。
風が吹くと体感温度がかなり下がるのだと、いつか図書室で読んだ気がする。


「月森、学ランの前開けっぱなしで寒くないのか?」

「寒い。けど、閉めない」


なんだそりゃ、という突っ込みを流しながら歩く。
ポケットに入れた手はまだ教室の熱をほのかに保っていたが、家に帰る頃には冷たくなってしまいそうだ。


「……手、繋ぐか?」

「へ?」


勇気を出して言ってみるも、聞き返されると急に恥ずかしくなって、なんでもないと首を振った。
が、どうやら陽介は聞こえていたようで、表情を輝かせてポケットに手を侵入させてくる。


「月森の手あったけー」

「陽介が冷たすぎるんだよ」

「じゃあ暖めてくれよ」


恐らく彼は何の気なしに言ったのだろうが、俺は少し悪戯を仕掛けてやりたくなって、ぐっと身を寄せた。
突然の事に驚いているらしい表情を間近に見ながら頬に口付ける。


「な…っ、月森?!」

「……暖めて、ほしかったんだろ」

「わ、何もうお前、本当可愛すぎんだけど」

「ちょっ、陽介…!」


周りには下校する他の生徒の姿もあるというのに、道の真ん中で抱き締めてくる陽介に焦った声を上げる。
幸い、生徒たちは寒さからか早足に通り過ぎていき、こちらを振り返ることはなかった。


「誰かに見られたら…」

「友情の熱い抱擁です、とでも言っとけって」

「アホだろ」


歩きづらいから離れろ、と否めると、じゃあ手だけはと指を絡められる。
やはり、陽介の手は俺より冷たい。


「まだ冷たい」

「仕方ねーだろー。あ、じゃあ月森ん家行っていい?」

「…別に構わないけど」

「え、うっそ、マジで!?」


なら早く行こうぜ、と俺の家に行くというのに陽介は俺より先に立って歩く。
腕を引かれながら、暖められているのはむしろ自分の方なのではないかと、ぼんやりと思った。





家に人気はなく、テーブルの上には菜々子の字で『ともだちのいえにいってきます』と書かれたメモが置かれていた。
夕飯の支度をするか迷ったが、まだ早すぎるかと考え直す。

先に部屋に上がらせていた陽介の元に一応お茶のセットを持って行った。


「お待たせ…って、何してるんだ?」

「え?ほら、前言ってただろ。例のものは布団の下だって」

「あのな…」


布団を捲りニヤニヤしている陽介に掛ける言葉が見つからず、テーブルにお盆を置いてソファーに腰かけながら溜め息を吐く。


「お前はエロ本見るために家に来たのか?」

「嫉妬すんなって!俺には月森が一番だから」


ここまでくるとある意味幸せな思考回路だと、感心して一人頷いた。
それをどう受け取ったのか、陽介は俺の隣に座ってソファーに押し倒してくる。


「…何するんだよ」

「何って、状況的にナニしかないじゃん?」

「もうすぐ菜々子が帰ってくる」

「大丈夫だって。それまでに終わらすから」


似たような台詞を何度聞いたことだろう、と思いながらも服を捲り上げてくる手を止めることはしない。
自分も人の事を言えた義理ではないと内心で苦笑した。


「……ぁっ」


冷たい手が脇腹を撫で上げる感覚にぞわりと肌が粟立つ。
手は感触を確かめるように肌の上を何度か滑り、やがて胸のあたりで止まった。


「……?」


そのまま動かないのを不思議に思い視線を向けると、陽介は俺の心音を聞くように左胸に顔をつけていた。


「なに、してるんだ?」

「…月森、すごいドキドキしてる」


さっき手繋いでた時よりもっと、と何故か嬉しそうに笑う。
肌に触れている柔らかな髪が揺れて、少し擽ったい。

身をよじると不意にぺろりと乳首を舐められ、油断していた分大きく体が跳ねた。
何度かそうされているうちに中心に熱が集まってくるのを感じる。


「んっ……ぁ 陽介、」

「早くシてほしい?」

「……菜々子が、帰ってくるから」


素直に頷くことなど恥ずかしくて出来ないため、菜々子を引き合いに出しす。
それを知ってか知らずか、陽介は額にキスを落としながらベルトを外しにかかった。
スラックスと下着をずらされ布に擦られるもどかしい刺激に腰が揺れてしまう。


「ふっ ん……あっ!」


わざとゆっくり全体を扱き上げられ、断続的な快感に背中がしなった。
先端から滲んだ体液を掬いとるように親指の腹で押され、すぐにでも達しそうになる。
だがあともう少しというところで手を離され、根元を強く握られた。


「ひあぁっ!…な、んで?」

「まだ我慢、な?一緒のが気持いいだろ?」

「そ、だけど…あ ぁんっ」


先端の小さな孔の回りをかりかりと爪でいじられ、快感が全身に走る。
けれど根元を戒められているため、行き場のない熱は解放を求めて腰で暴れる。


「あ、あっ、やぁ…も、だめぇ」


涙でぼやける視界に陽介を捉えて訴えるが、行動とは裏腹な優しい口付けを落とされるだけで戒めは解いてくれない。
やがて先端を持て遊んでいた手が離れていき、掬い取られた体液のぬめりを借りて後孔の入り口をぬるぬると撫でられた。


「あっ、ふ…ぅん……っ」


中に侵入してきた指は探るように動き、無意識に締め付けてしまう。
くちゅ、という耳を塞ぎたくなるような水音を、おそらくはわざと立てているのだからたちが悪い。


「んっ、はぁ…よーすけ」

「あ、今の発音ちょっとクマっぽかった」


なんだか腹が立ったので、膝を立てて陽介のものを刺激してやった。
ぎりぎりなのは俺に限ったことではないようで、うっ、という短いうめき声が聞こえた。


「あんま煽んなって」

「……してる間くらい、他の奴のことなんか考えるなよ」


少し睨みながら言うと、陽介は驚いたような表情の後困ったように苦笑した。


「あー、ごめん。…でも煽った月森も悪いんだぜ?」

「え?…ひっ あぁああっ!」


指が引き抜かれるのとほぼ同時に押し入ってくる熱に、慣らしきれていない内壁が悲鳴を上げた。
引き攣れるような痛みの中、陽介が発した謝罪の言葉は果たして何に対するものなのかを考える。
が、すぐに始まる律動にそんな思考は一瞬で消えていった。


「ふぁっ あぁっ、あ、ぁん…!」


何度か貫かれているうちに痛みよりも快感が押し寄せるようになる。
内側から沸き上がる絶頂感をやり過ごそうと必死に陽介の背中に腕を回した。


「あ、ぁあっ …ようすけっ、も、むりぃ…!」

「ん、よく我慢したな…っ」

「ぁん!はっ あぁあ…っ」


深く穿たれるのと同時に根元の戒めを解かれ、長い間塞き止められていた欲が一気に解放された。
腹の上で、直前で引き抜かれた陽介の白濁と混ざりあう。
風呂に入らなくてはと思うが、途端に重くなる瞼に逆らえそうにない。


「…陽、介……」

「少し寝ていいぜ。後はやっとくから」

「ん……」


階下から玄関の開く音が聞こえたような気がしたが、フェードアウトしていく意識を引き止めることは出来ない。
頭を撫でられる感触が気持よくて、無意識に擦り寄る。
陽介の手は温かかった。



熱平衡
(混ざりあって、同じ温度)
(二人なら寒い日も悪くない)


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