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still
夜、ちょうど風呂から上がったところに携帯の着信を知らせる電子音が鳴った。
ディスプレイには、月森孝介の名前。
一気に心拍数が上がるのを感じる。


「…もしもし?」

「あ、陽介か?俺だけど」

「どうかしたのか?」


月森から掛けてくるなんて珍しいと思いながらも、平静を装った声で対応出来ているか心配になった。


「あぁ、その…今から会えないか?」


大したことじゃないから明日でもいい、と言うわりには、月森の声はどこか緊張しているように聞こえる。
今から、と時計を確認する。
午後10時を少し過ぎた頃。


「うーん、俺は平気だけど、堂島さんは?」

「今日は仕事で帰ってこない。菜々子はもう寝ちゃったし」

「分かった。じゃあ、鮫川のベンチでいいか?」


こんな時間にすまない、と言う月森に気にするなと伝え、家を出る準備をした。
親にはコンビニに行くと言って、やや駆け足に指定した場所へと向かう。

(期待、してもいいのか?)
(お前からの呼び出しなんて、まるで)






「陽介!」


結構急いで来たはずなのだが、すでに月森はベンチに座って俺を待っていた。
もしかしたら電話は外から掛けていたのかも知れない。


「うっす。で、何かあったのか?」


いつものように、軽く笑って問いかける。
朝、挨拶するのと同じように。
意識していなければ余計なことまで言ってしまいそうで。


「あのさ、…これ」

「…?」


差し出されたのは手のひらサイズの、綺麗にラッピングの施された箱だった。


「え、もしかして、バレンタインの?」

「……明日皆の前で渡すの、なんか恥ずかしくて」


月森は俯き加減に、居心地悪そうに視線を逸らした。
薄暗い街頭の下でも、その顔に僅かに朱が差しているのが分かった。

(そんな反応されたら、)
(うぬぼれても、いいですか)


「こんな時間にわざわざごめん。じゃあ、また明日…」


視線を泳がせたまま去ろうとする月森の腕を掴んで、


「あ、あのさ…」

「な、に?」

「前も言ったけど、…お前は俺の、」



まだ友達の君へ
(特別の意味、ずっと考えたけど)
(君の気持ちには最初から気付いてたよ)


あきゅろす。
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