アメ
窓から見える景色は朝から降り続く雨で煙っている。
もうすぐ期末試験ということもあり、先ほどまでは数人のクラスメイトたちが雑談を交しながら残っていたが、少し前に下校してしまった。
教室にはテレビのノイズに似た雨音と二人分のシャーペンの音だけが響く。
テレビ、という単語を思い浮かべ、向かい合わせでノートにシャーペンを走らせている月森を見た。
「なぁ、」
「ん?」
「この雨上がったら、また霧出んのかな」
「…出ないといいな」
試験勉強などしている場合ではないのではと焦る気持ちを抱き始めた俺に対し、月森はいつもと変わらず冷静だ。
「でも今日の雨は夜までに止むらしい。明日からは晴れるって」
「そっか。なら安心して期末に…あー……」
自滅して机に伏せた俺に、月森がくすり、と小さく笑う。
「なんだよ、笑うなよー。学年トップは余裕あっていいよなー」
「別に余裕あるわけじゃないけど。…あ、そうだ」
横の机に置いていた鞄から、月森は何かを引っ張り出した。
見えたのは何となく懐かしい某有名メーカーのドロップス缶。
カラン、と中の飴玉が音を立てた。
「今朝菜々子にもらったんだ。勉強するときは甘いものがいいんだよ、って」
「へぇー。菜々子ちゃん、俺らがもうすぐテストって知ってんのかな」
「かもしれない。……ほら、手出せよ」
オレンジ色の飴玉を口に入れた月森は、俺の方を見て缶を振った。
「え、いや、俺はいいよ」
「甘いもの嫌いなのか?」
「んー、あんまし。月森は?」
俺はわりと好き、と言いながら、月森は再びシャーペンを持つ。
また勉強モードか、と若干うんざりしながら、ただその行動に準ずるのもつまらないのでじっと顔を見つめてみる。
伏せられた目。
(睫毛長いんだよな)
薄く形の良い唇。
(いつもより濡れてんのは飴のせいか)
「……月森」
「……?」
「キスしていい?」
何か言われる前に身を乗り出して唇を塞いだ。
軽く吸って、僅かに開いた隙間から舌を差し入れる。
ひどく甘い。
目眩がしそうなほどに。
「ん……っ、ふ…、ぁ」
一回り小さくなった飴玉を探りあて、互いの舌の間で転がす。
ころころ、ころころ。
飴を俺の口内に引き込むと、取られまいとして月森の舌がそれを追い掛けてくる。
「っ……ぅ、ん」
もっと絡ませようとしたが、瞬間早く飴を取り戻した月森に全力で肩を押され離されてしまう。
「な…に、するんだよ……」
「していいかって聞いたじゃん」
「いいって言ってない」
少し不機嫌そうに顔をしかめているが、これは照れ隠し。
本気で怒った月森は、口を利かないどころか目も合わせてくれなくなる。
「月森、お前すっげー甘い」
「甘いのは俺じゃなくて飴だろ」
「んーん」
開かれた襟から覗く首筋に口付ける。
小さく息を飲む声と、残される紅い痕。
「ほら、やっぱ甘……っ!」
顔を上げ、言葉を発した途端口に押し込まれた何か。
甘い。
「調子にのるな」
「……うぇっ、めっちゃ甘」
缶を手にした月森が満足げに微笑む。
「…俺が好きなのは月森の味なんだって」
「お前が言うと下ネタに聞こえる」
「あ、まじ?じゃあそっちも…」
もう一つ、飴玉が口の中へ。
一瞬見えた淡い桃色は照れる君の頬と同じ色。
雨、ところにより甘
(…これ、出していい?)
(勿体無いからだめ)
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