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線香花火の恋模様
バイト中、売り場の品出しをしていて、ふと目にとまったのは花火セットが並ぶ棚。
猫か兎かよく分からないキャラクターのイラストがついていたり、派手な色使いがされていたりと目に鮮やかだ。


「花火か…そういや最近やってねぇな」


品出しをする手を止め、色とりどりの花火を一つ一つ見ていく。
不思議なもので、最初はどうでもいいと思っていても見ているうちにやりたくなってしまうものだ。


「…月森誘ってみるか」


バイトを早目に切り上げ、携帯で電話を掛けてみる。
数回のコールの後、通話状態になると月森が応答をする前に言った。


「あ、月森?あのさ、これから花火しようぜ」

『何だよ、いきなり』


俺の勢いに少々驚いた様子で月森は言った。


「いーじゃん。やろうぜ、花火」

『別に構わないけど…どこでやるんだ?』

「鮫川んとこでよくね?広いし、水汲むの楽だし」

『そうだな』


じゃあ後で、と言って電話を切った後、俺はかなり本気で花火を選んだ。
月森とする花火ならどれでも同じくらい綺麗なんだろうけど、とか考えて、あまりの乙女チック思考に一人苦笑した。
周りから見たら、花火を見て笑っている相当アレな人に見えただろうが。







バケツと花火を持ち、鮫川河川敷に着いたときはまだ日が沈みきっておらず辺りは薄暗かった。
早く来すぎたかと携帯で時間を確認すると、案の定30分近く余裕があった。

(ちょっと張り切り過ぎたかな)

我ながらはしゃぎ過ぎだと恥ずかしく思い始めたころ、土手の方から自分を呼ぶ声が聞こえた。


「早いな、陽介」

「お前もな」


まだ来てから10分と経っていないが、現れた月森に嬉しくなる。
浮かれているのは俺だけではないと思っていいのだろうか。


「まだ花火にはちょっと明るいな」


俺のいる河川敷に降りてきて言った月森に頷く。
たしかに先程日が沈んだばかりで、ようやくおぼろげな月が見えてきたところだから、花火をするには早い時間かもしれない。


「まぁでも、水汲んだり花火広げたりしてるうちにちょうどよくなんだろ」


俺が水を汲んで月森が花火を広げ、チャッカマンを忘れたことに気付き買いに行ったりしているうちに辺りはすっかり暗くなった。
虫の鳴き声と川の流れる音と、俺と月森が話す声しか聞こえない。


「うっし、じゃあ記念すべき一発目!」


わざわざ点火用ろうそくを使うのが面倒で、使用方法では禁止と書いてあるチャッカマンで直接花火に火をつける。
案外簡単に燃えた火薬は鮮やかな閃光を噴射した。


「うわっ、すっげー!」

「危ないから振り回すなよ」


四刀流と言いながら四本同時に点火してみたり、必殺技のようなやたら長い名前をつけてポーズをとってみたりと何やら幼稚で危険な遊び方をしてみたりもした。
花火はもちろん楽しいし、綺麗だ。
そして月森が最後に手にとったのは、花火のシメの十八番、線香花火。


「どっちが長くもつか競争しようぜ」

「いいな」

「相手の吹いて落とすとかなしだからな」

「しないだろ、普通」


誰だよそういうせこいことするのは、と笑う月森。
クマならやりそう、と言って、今度は二人して笑った。


「それじゃ、いくぞ」


ほぼ同時に点火された二本の線香花火。
最初は丸く火の玉ができ、続いてパチパチと独特の乾いた音を立てて火花が散る。


「…綺麗だな」


ぽつりと言った月森の声が妙に大きく聞こえて、花火から視線を移す。
瞬間、思わず花火のことなど忘れて見入ってしまった。
いや、見惚れたと言った方が正しいか。

綺麗だった。
花火もだが、その頼りない光に照らされた月森が。

不規則な火花のせいで定まることなく揺らめく陰影が、より一層その魅力を強める。
その瞳から、唇から、髪の毛の一本にいたるまで、視線をそらせない。

(あぁ、まずいな)

今すぐ抱きしめたい衝動に駆られる。
けれどそれをしたら花火の火が服に燃え移るかもしれない。
月森が火傷したら大変だ。

俺は、その来るべき瞬間を待った。
線香花火の最後の光の雫が地面に落ちる一瞬を。

やがて少し強い風が吹きつけ、煽られた線香花火が短い輝きを終えた瞬間、


「………っ…!」


真っ暗になる一瞬前に重ねた唇。
音もなく落ちた線香花火の光がなくなり、闇に慣れない目では自分の手元すらよく見えない。
だが重なった唇から月森の体温と、純粋な驚きが伝わってくる。
見えないながらすぐに状況を理解したらしい月森が俺の肩を押し返す前に、その後頭部に手を回し固定した。
しばらくそうしていて、ようやく解放してやると今度こそ腕を伸ばせる限界の距離まで押し離された。


「馬鹿!誰かに見られたら…」

「大丈夫だって。暗くて何も見えないし」


月森の顔も見えなくて残念だ、と言うと、見なくていい、と一言。
あぁ、これはもしかして。

俺は残っていた線香花火にまた火をつけた。
パチパチとスパークし始める花火。
再び照らされる月森の姿。


「月森、照れてる?」

「照れてない」

「だって顔真っ赤」

「……うるさい。花火のせいだろ」




(花火の色、赤じゃないぜ?)
(………………)



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gdgdすいませ…(泣)
ヘタ村どこ行った。



あきゅろす。
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