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青い鳥中毒
梅雨だから仕方がないのだと分かっていても、やはり雨というのは人の心を鬱にさせるものだ。
土砂降りではないが傘がなければ風邪を引きそうな降り様。


「どうしようか…」


今朝天気予報を見て菜々子には折り畳み傘を持たせたのだが、自分は出掛けに持とうとして結局忘れてきてしまったのだ。
いつまでも下駄箱前で雨模様を見ていても仕方がないので、図書室にでも行こうかと踵を返した時だ。


「あれ、月森じゃん」


ちょうど階段を下りてきた陽介がこちらに気付き歩み寄って来た。


「こんな所に突っ立ってどうしたんだ?」

「傘忘れたから、止むまで時間潰そうと思って」


俺が答えると、陽介は少し考えるような仕草をした後、名案を思いついたというような顔になって言った。


「相合い傘しようぜ」

「……は?」

「雨いつ止むか分かんねぇだろ?」


夜中までは降り続かないようだからマヨナカテレビの心配は無さそうだ。
だが確かに、止むまで学校に缶詰というのはいただけない状況だ。


「ほら、早くしろって」

「でも…」


俺は横を通り過ぎていく他の生徒たちを横目に見た。
下校のラッシュは過ぎたようで数人のグループが談笑しながら過ぎていくだけだが、やはり周りの視線というのは気になるものだ。


「あー…もしかして俺と相合い傘は嫌か?」

「え?」

「だよなー、やっぱ相合い傘は女の子とじゃなきゃな」

「あ、いや、違っ!嫌とかそういう意味じゃなくて…」


慌てて否定するが、よく考えるとその反応もおかしいんじゃないかと思う。
俺は何を焦っているんだ。


「えっと、その…出来れば傘一緒に入らせて欲しいな」

「オッケー!つか俺、月森ならいいかなー、なんちゃって」

「何だそれ」


冗談だって、と笑う陽介。
何故かそれを、寂しく感じている自分がいた。
本当に、俺まで雨でおかしくなってしまったのだろうか。


「ははっ、やっぱ男二人で入ると狭いな」


陽介が持つ傘に二人肩を並べて入る。
くっついていなければ濡れてしまうから非常に歩き難い。


「いっそ腕でも組んじゃう?」

「…それはさすがに」


状況的に寒すぎる、と口では言っていた。
もちろん陽介が冗談で言っているのだと分かっているから。
けれど、さっきから心臓が煩いくらいに早く打っているし、体温が上がっているのが分かる。


「…月森?なんか顔赤くね?」

「…そんな、ことない」

「そうか?………ッ危ない!」

「うわ…っ!」


突然ぐい、と肩を引き寄せられ、陽介に倒れ込むような格好になってしまう。
先程よりもさらに上がった鼓動が苦しい。
すぐ横をスピード違反気味に通過していくバイクのエンジン音さえも、どこか遠いところの音のように感じられた。


「あっぶねぇ……月森、大丈夫か?」

「…………」

「月森?おーい、孝介ー?」

「…あ、あぁ、大丈夫」


そう返しながらも、どうしてこの状況で名前なんか呼ぶんだと思っていた。
悔しいほど胸が痛い。
もう、目を背けられないじゃないか。
この気持ちからも、お前からも。


「…あ、雨止んできたな」


陽介の声に視線を空へ向けると、濃い灰色の雲の合間から透き通るほど青い空が覗いていた。

けれど今は、それすら恨めしいと思う。
雨が上がってしまったら、傘は用済みになってしまう。


「よーし、せっかく止んだんだし、ちょっと遊んで帰ろうぜ」

「…うん、いいな」


俺は少し無理して笑った。
今はこの距離を大切にしたいから。
冗談を言い合える"親友"を失くしたくから。




(いつかあの空と同じ色の翼を持つ鳥を捕まえられたら)
(俺はお前に言えるのだろうか)



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珍しく主人公視点+片想い
なんだこのクサさは;;



あきゅろす。
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