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永遠世界
学校の帰り、どちらからともなく桜を見に行こうということになった。
とは言ってもまだ三分咲き程度なので物好きな花見客は当然俺たちしかいない。


「やっぱり全然咲いてないな」


俺の隣に立って木を見上げ、月森は苦笑気味に言う。


「でも他に人いないし、のんびり見れてよくね?」

「それはそうだけど…珍しいな、陽介がそんなこと言うの」


花見なら皆で行こうってタイプに見えるのに、と続ける月森に頷こうとしてやめた。
代わりに一歩近付いて肩を抱き寄せる。


「皆とは満開になったら。お前と二人きりで過ごせんのって、もうそんなにないじゃん?」

「別に二度と会えなくなるわけでもないだろ」

「そうだけどさー、何か寂しくね?」


いつもなら手を軽く払われて一歩退かれるところなのに、今日は逆に少し体を傾けて俺に体重を預けてきた。
これは、月森も俺と同じ気持ちでいてくれていると受け取って良いのだろうか。
調子に乗ってそのまま腕を回し後ろから抱き締めるような格好になるが、やはり月森は何も言わない。


「……陽介、桜の花言葉知ってるか?」

「え?あー、そういやこの前柏木が言ってたな。たしか…」


色によって違う、と言っていたような気がする。
だが肝心の花言葉の方はどうも記憶があやふやだった。


「白が気まぐれ、淡紅が愛国心と、もう一つ…」


月森は一旦言葉を区切り俺を振り返った。
悪戯っぽく微笑むと、その唇が頬に落とされた。


「永遠の愛、だ」

「月森…」


唇が触れたところから、顔が火照っていくのが分かった。
たぶん今、みっともないくらい赤い顔してる。


「お前…いきなりは反則だって」

「いつものお返し。…ていうか、そんなに照れられるとこっちまで恥ずかしくなってくるんだけど」


そう言って月森は俺の腕の中で居心地悪そうに身じろぎした。
それを押さえつけるみたいにぎゅっ、と腕に込める力を強くすると月森は驚いたような声を上げる。


「わっ、ちょっ、誰か来たら…!」

「平気だって。むしろ見せ付けてやろうぜ」


俺たちの永遠の愛、と続けると無言で肘鉄を繰り出された。
見事にヒットしたそれにうめきながらも腕をほどかずにいると、諦めたのか溜め息をつく月森。


「…陽介、」

「どした?」

「その、これからも……」


黙ってしまった月森を不思議に思い顔を覗き込もうとしたが、首を捻って逆を向かれてしまう。


「月森?」

「……──き、…から」


一瞬強く吹いた風と揺れる桜の枝の音に月森の呟くような声は掻き消されてしまった。


「え?何、もう一回!」

「…もう言わない」

「頼むって月森ー!」


なんて言いながら、本当は何となく想像はついていたけれど。
風にのって髪に付いた桜の花びらと同じ色に染まった月森の横顔をもう少し楽しんでからにしようと、気付かれないようにそっと笑った。



桜の下、君との永遠
(これからも、好き、だから)
(淡く儚く確かな永遠)


あきゅろす。
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