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四月馬鹿とハンムラビ
ソファーに二人並んで座り、何と無くつけているテレビを眺める。
昼の時間帯にやっているワイドショー関連の番組はさして興味を引くような内容ではなく、かと言ってチャンネルを回すのは面倒なのでただ移り変わっていく映像を見流していた。

そんな俺の横で、月森は何やら難しい顔をして本を読んでいた。
ページを横目に覗き込むと『漢たるもの』という書き出しの文が見え、少しばかりの恐怖と溜め息を吐きたくなるのを何とか堪える。

あれ、俺ら今、何してんだ?
一応、お家デートってヤツなんじゃないのか?

俺の思考回路が乙女チック過ぎるのかと、半ば無理矢理納得することにした。
つまらないワイドショーから視線を外し、改めて月森の部屋を見回す。


(相変わらず…片付いてんだか散らかってんだか分かんねぇ部屋だよな)


棚に並ぶプラモは素晴らしいクオリティだが、そうかと思えばCDがケースに入れる事もなく無造作に置かれていたりする。
布団の畳み方は…まぁ俺と同じくらいかな。

部屋を一周した視線を再びスタート地点である月森に戻したところで、その向こうの壁に掛けられた存在感の薄いカレンダーに目が留まった。
今日は四月一日、だから。


(エイプリルフール、か)


四月馬鹿、なんて酷な名前が付けられた日。
どこかの国で決められた、一年に一度だけ嘘が許される日。

別にエイプリルフールだからと言って絶対に嘘をつかなければならないという訳ではないが。
せっかくだし、良いことを思い付いた。


「…月森」

「………ん?」


やや間を置いてようやく本から顔を上げた月森。
その本を少しだけ恨みを込めてテーブルに置き、改めて月森に向き直る。


「今日はさ、俺が下、でいいぜ」

「………は?」


俺の放った言葉に、本当に意味を理解していないような怪訝な表情で首を傾げた。


「だから、今日はお前が俺に突っ込んでいいっつってんの!」


自分で言っていて妙に気恥ずかしくなり、巻くし立てるように言い切った。
もちろん、エイプリルフールの大嘘なのだが。

月森は唖然とした様子でしばらく俺を見ていたが、やがて何がおかしいのか盛大に笑い出した。


「な、何で笑うんだよ!」

「だっ、て…くくっ……陽介、言いながら照れてるから」


例え冗談でも照れずに言える奴がいるとしたら、ある意味そいつのメンタル的なものが心配になると思うのだが。
そんなことを考えていた俺の意識は、どん、と強く押される衝撃と背中に感じた少し固めのソファーの感触によって引き戻される。


「え…?」


上から覆い被さるようにして顔を覗き込んでくる月森は、薄く微笑んでいて。
わ、やべー今ドキってした。

…じゃなくて。
何だ、何なんだこの状況は。


「月森、さん?」

「陽介…」


キスを受けながら、脳味噌はフル回転を始める。
待て、待て待て。

これは、マズい。
かなり、マズい。


「ちょっ…ま、待った!たんま!」


全力で月森の肩を掴み、何とか会話を交せる距離まで引き剥がした。


「お前、もしかしてマジで突っ込む気?」

「…今日はいいんじゃないのか?」


明らかに不満そうな表情で言う月森に、今日二度目の恐怖を覚えた。
こいつ、絶対に本気だ。
が、ここで怯むわけにはいかない。


「月森、今日は何の日だ?」

「…エイプリルフール、だろ?」


ふ、と笑う月森は先程までの雰囲気から一変し、いつもの穏やかで、俺といるときだけ僅かに幼さを覗かせる表情をしていた。
俺が上半身を起こすと、月森は膝の上に座ったまま言う。

「陽介がエイプリルフールの嘘吐いてるんだろうなって、最初から気付いてたよ」

「えー、せっかくお前のびっくりするところ見ようと思ったのに」


結果的にびっくりさせられてしまったのは、何だか悔しい。
こいつにはやっぱり敵わないな、と項垂れる俺に止めの一刺し。


「うん。だから俺も、陽介を驚かせようと思って」


嘘には嘘を、と呟いた月森は、首に腕を回しながら口付けてくる。
出来れば今日だけの嘘にして欲しい、寿命が縮む、と苦笑しながら、俺はキスをしながらその体をソファーにゆっくりと押し倒した。



四月馬鹿とハンムラビ
(なぁ、あそこで俺が止めなかったらどうした?)
(そのまま続けた)
(…………)


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微妙(?)に主花くささを漂わせつつやっぱり花主。←
そして当家にしては珍しくギャグ風味。



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