以心伝心
沖奈駅付近にあるこの辺りでは比較的大きなレンタルショップ。
新発売のCDを借りたいという陽介に付き合いやって来た。
久しぶりの都会くさい雰囲気にむしろ新鮮さを感じてしまうのは、俺が八十稲羽にすっかり慣れ親しんだせいだろうか。
特に借りたいものはないのでぼんやりと棚を見ていると、何だか懐かしいSF映画のパッケージに目が留まった。
少年が自転車の前カゴに宇宙人を乗せ、大きすぎる満月を背景に飛んでいる。
パッケージ裏面には名シーンのカット映像がいくつか並び、簡単なあらすじが書いてある。
「陽介」
少し離れた棚を見ていた陽介を手招きして呼ぶ。
俺の隣に立ったところで、右手の人指し指を差し出した。
「ほら、陽介も」
「は?何が?」
「交信」
「……あぁ、そういうこと」
俺の持っていたパッケージに気が付いたのか、陽介は頷いた。
それから俺と同じく人指し指を立てて差し出した。
指先と指先が、くっつく。
「昔、初めて映画見たときもやったよな」
懐かしそうに陽介は言う。
(誰と、なんて聞く意味はないんだろうけど)
(だってそれは、俺の知らない君だから)
「……交信、出来たか?」
「まさか。実際信じてたら痛すぎだっつの」
たしかに、と頷きながら、でももし可能ならそれはとても便利だと、思う。
(伝えなくていいことまで伝わってしまうかもしれないことが)
(多少怖くもあるけれど)
「あ、でもお前となら本当に交信出来るかもな」
「どうしてだ?」
「いやそりゃ…聞くなよチクショウ」
変なところで照れる陽介にこっちまで頬が火照ってくるのを感じながら、交信した内容が同じであることを願った。
指先から以心伝心
(俺の知らない君と君の知らない俺)
(ある意味未知との遭遇、かもしれない)
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