[携帯モード] [URL送信]
略奪愛
(※影村×主)



日曜日の午後、珍しく陽介からメールが着ていた。
本文は『今からテレビの中に集合』とだけ。

いつもならば一旦ジュネスのフードコートに集まってからテレビに入るのに、何か緊急を要することでも起きたのだろうか。
何と無く、胸騒ぎを感じなからも俺はジュネスに向かった。

皆先に行ったのだろうか、家電売り場へ到着するまでも自分以外の仲間には会わなかった。
周囲を見回し、テレビに飛び込む。
中央広場にはやはり誰もいない。


「…陽介もまだなのか」


自分で呼び出しておいてまだ来ていないとすると、それほど緊急の事態に陥ったわけではないようだ。
一先ずは安心した。

生憎テレビの中は圏外なため、階段に座って待とうと腰を落としかけたとき、


「……ッ!」


背後から腕が回され抱き締められる形になる。
身動きが取れずに首だけ振り返ると、薄茶の髪が頬に当たった。


「陽、介?」

「おせーよ、月森」


確認するために名前を呼ぶと、返事として返される声。
間違いなく陽介のはずなのに、消せない違和感。


「…ごめん、外に店員がいて。他の皆は?」

「呼んでない。俺とお前の二人だけ」


ということは、ダンジョンに向かうわけではないのだろうか。
目的が分からず首を傾げる。


「とりあえず離してくれよ」

「何で?」

「何でって…この向きじゃ話しづらいし」


距離近くていいじゃん、と笑う陽介。
やっぱり違う。

陽介だが、陽介じゃない。
思い当たる答えは一つ。


「お前…影、か?」

「……もう分かったのか、さすが俺の相棒」


それとも愛?、と耳元で囁かれる。
前触れのない擽ったさに、思わず高い声が上がった。
自分でも驚いて唇を噛むと、陽介の影はくつくつと愉快そうに喉の奥で笑う。


「耳、弱いのか?」

「や めろ…っ」

「可愛い声出しちゃってさ。誘ってんの?」


否定しようと口を開く前に顎を掴まれ、唇を押し当てられる。
首の向きが苦しくてもがくが、しっかりと腰に回された腕を振りほどくことは出来ない。


「ん ん……はっ」


酸素を求めて口を開くと、すぐに滑り込んでくる舌。
口内を好き勝手に蹂躙する舌の動きは、いつもの陽介の落ち着かせるようなそれではない。

呼吸の苦しさで視界が滲む。
その霞んだ視界の向こうで、影は僅かに唇を離して言った。


「……何で、…あいつなんだよ」

「…ぇ……?」


酸欠でぼんやりとする頭で、問われた言葉を反芻する。
だが意味を理解する前に陽介の影は、いつの間にか外されていたベルトの隙間からスラックスの中へするりと手を差し入れた。


「や、やめ……あっ!」


下着の上から握られ、背筋にぞくぞくとした痺れが走った。
形を辿るように触られて熱を持ってくるのが分かる。


「やぁ ん…あっ、やだ!」

「そんなに俺のこと嫌いなのか?」


影が、陽介の声で言う。
頭では陽介ではないのだと分かっていても、同じ声と同じ体温に惑わされる。

答えられずにいると、中心を撫でる手の動きに緩急のリズムが付けられた。
じわりと先端から先走りの液体が漏れだし、下着の色を濃くする。


「あ、あっ…や、だぁ…!」

「あいつは良くて、俺は駄目なのかよ」

「んっ、ぁ、いつ…って?」


早くなる呼吸の合間に問うと、陽介の影はサディスティックな笑みを浮かべながらも不釣り合いな優しいキスをした。


「"あいつ"は俺で、俺は"あいつ"。けど、俺は"あいつ"にはなれない」


俺は"あいつ"の影でしかないから、と呟く声は無感情の中にどうしようもない寂寞を含んでいるように聞こえて。
だがそれを確認する前に、下着の中に手が侵入させられる。


「ぁあっ、あ…ん、っ」


スラックスと同様に膝辺りまで引き下ろされ、立ち上がり蜜を溢す自身が露わになる。
直接握られ、体液を塗り込めるように扱かれて膝に力が入らなくなった。


「あっ、あ、ぁん…!」


後ろに立つ陽介の影に支えられ何とか立っている状態。
耳までも犯すいやらしい水音に、上がる嬌声が押さえられない。


「ふぁっ、ん…も、手 離して…っ!」

「いいぜ、このままイって」

「ぁあっ…陽介っ!ひぁ ああっ!」


どくん、と脈打ち吐き出された白濁に汚れた手を、陽介の影は俺の眼前に持ってくる。


「ははっ、月森いっぱい出たな」


顔を背ける俺を楽しそうに見ていたと思うと、おもむろにその手を自分の口元に持っていき舌を這わせ始めた。
舐め取られていく白濁に、忘れかけていた羞恥心が一気に蘇る。


「やめろよ、そんな…っ」

「お前だって、よく"俺"の飲んでんじゃん」


上からも下からも、と加虐的に言い、指の間に付いた分まで綺麗に舐め取った。
その様を抗議的な目で見ていると、不意に影は回していた腕を解き引き下ろされていた服を着せ始めた。


「…それじゃ、またな、月森」

「え?」


思わず口を突いたのは、驚きを含んだ感嘆詞。
最後までしてほしかったのか、と悪戯に笑う影に、慌てて首を振る。


「もうすぐ"あいつ"が来るから。俺が全部奪っちまうのは可哀想だろ?」


そう言って、陽介の影は俺に背を向け深い霧の立ち込める方へと歩いていく。
その背中に、何故か俺は声を掛けていた。
何を言おうと、しているのだろう。


「えっと……」

「……"俺"のこと、陽介って呼んでくれて、嬉しかった」

「…!」

「けどさ、──…」


影は振り返らずに、ひらひらと手を振って去っていき、すぐに霧で見えなくなった。
最後に聞こえた声に、しばし呆然とする。


(全てを奪ってでも、お前を手に入れたくなっちまうから)


と、再び背後に人の気配。


「月森?どうかしたのか?」

「陽介……、陽介っ!」

「おわっ!ちょ、マジ何?!」


突然抱きついた俺に驚いている様子の陽介。


「ごめん…ごめんな」

「……本当、どうしちゃったわけ?」


優しく頭を撫でてくれる手は、さっきまでここにいたあいつより少しだけ体温が高かった。



奪っても奪われても
(そこにあるのはただ愛しいと想う感情だけ)
(ならば君が君じゃなくても構わないなんて罪でしょうか)


--------------------
陽介の意識と影村の意識は別個なんじゃないかという妄想話(←)


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!