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長夢
邂逅〜天狗〜 序ノ幕3



―やはり雨の後の道は悪い。



ぬかるんだ土に足を取られながら、細い山道を歩いていく。住み慣れている私でも危うい足つきになってしまうというのだ、旅人などには危険すぎる。
私の両親も、地盤が弛んだ山道で土砂崩れを起こし死んだのだ。
あの時のことは今はもう思い出せないが、記憶を辿ろうとするだけでも恐怖が甦る。


あんな風に悲しいものは

もう誰にも見たくない。

もう誰も死なせたくない。


だから、これが私の日課。雨上がりは、山を見回り怪我人などがいないかを調べることである。これを続けて何年も経つが、やはり毎年数人は見つかる。軽度で命に別状の無い者もいるが、既に事切れている者もいた。その場合は丁重に葬ってやる。誰なのかも分からないから、名前の無い墓は毎年増えた。


「っと…」


重心を崩しかけ、危うく山道から落ちそうになる。慌てて体勢を立て直して安堵の息を溢した。
今の道は危なかった。
山に住み慣れている私ですら落ちそうになったのだ、きっと旅人が落ちてしまうのならば此処だろう。そう思って、そっと気をつけて下を見下ろす。




いた。



此処からはよく見えないが、多分2人いる。
足元に最新の注意を払いながら人影の元へと下ると、やはり其処には2人倒れていた。
見れば、一人は男性で白髪も目立つ。もう一人は未だ幼い顔つきをした男の子だった。
親子だろうか。
怪我の具合を見てみると、男の子の方は幸いにも掠り傷しか見当たらない。しかし男性の方は足がおかしな方向へ捩れている、骨折しているのだろう。近くに落ちていた木を添え木にし、自分の着ている着物の端を破り固定した。一先ずはこれで応急処置だ。


「…う」

「大丈夫ですか?」


小さなうめき声を漏らした男性に問いかけると、僅かだが反応があった。意識はあるらしい。一回では運びきれないと判断し、2回に分けて2人を私の家へとつれて帰ることにした。






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