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浅夢
琴の音


窓の外は雪であった。


真っ白なそれらは音もなく降り積もり、庭園に雪化粧を施してゆく。一際大きな一粒が地面に落ち、そのまた上に同じものが積み重なっていく情景を、あかりは静かに見つめていた。吐息は白い。
一端は外に移していた意識を、ふいと目の前に置かれているものに戻す。それは立派な琴であった。大層値が張りそうな、それはそれは雅な絵柄が刻まれている琴。しっかりと張られている琴線は、この冬の寒さに益々緊張感を保っているように見える。

そっと触れる。

零れる音。

あかりは目を細め、姿勢を正す。

そして紡ぐ、琴の音色。

冬の静かな部屋と庭園に響く、凛とした音色。それらはまるで一本の糸のように流れ出て、穏やかな川のようにすら感じる。あかりは琴だけに集中し、緩やかな手つきで琴線を揺らす。真っ白な指から、溢れ出る琴の音色。


ふと、音が止む。


あかりは、ゆっくりと顔を上げて振り返る。

そこには大きな箱を携えた薬売りが座っていた。

奇妙な格好をし隈取をした薬売りは、艶やかな笑みを浮かべあかりを見つめる。異国の者と思わせる青い瞳を見つめ返し、あかりは微笑む。


「やはりお越しになったのですね」

「いや、貴女の琴の音が、聞こえたもので」


独特な間を空けて話す薬売りに、あかりはゆるりと琴に視線を戻す。そっと触れて、一音。


「そうですか」

「不思議な音、でしてね」


薬売りは立ち上がり、あかりの隣に静かに座す。不意に香のようなものが薬売りから馨り、あかりは僅かに頬を赤くした。薬売りは伸ばされたあかりの手のひらに、自分の白いそれを重ねる。
伝わる体温。
其処から火傷のような熱。


「こいつが聞こえる度、どうも」


紡がれる言葉が、琴の音色のようにあかりに響く。
掠れた艶やかな声。
音もなく降り積もる雪が解ける、熱。





「あんたに会いたくなっちまう」






琴の音
(俺を、誘っているんで?)(さあどうなのでしょうね)



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あきゅろす。
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