鮫連載 ダブルブッキング01 「…名前」 「へ?」 「…それ、本物かぁ?」 「ぇ…ぁ…うん」 クローゼットから名前を出し、ソファに座らせ訪ねれば、ピクピクと耳を動かす。 なんだって人間はこんなものを作り上げたのか。 名前から聞いた話によれば、元はちゃんとした人間だったと言う。 それが、ある時を境に記憶が途切れ、気づいたときにはこの半獣の姿。 ちゃんとした獣にはなれるものの、人間には戻れなくなってしまったと言う。 この中途半端な姿のために虐げられ、煙たがられ、生活の大半を獣の姿で過ごすようになった。 「…それをたまたま拾ったのが俺ってわけか。」 「うん」 「なんだってまた俺に付いて来たんだぁ?」 「だって、」 居心地良さそうだったから、そう言って名前は笑った。 この猫はまた、どうして捨てられるのを恐れながら付いて来たりするのか。 それにしても、なんだってあんなところにこんな姿でいたのか。 いつまでシーツを被っているつもりだ? 色々と考えていると不意に名前を呼ばれ、名前の白い腕が伸びてきた。 「しわ…よってる」 くすくす、と笑う名前に一気に顔に熱が集まった。 「なっ?!な、にすんだぁ!」 「ぁ、ごめん」 しゅん、と耳まで垂らす名前を可愛いと思う反面、怒鳴るのはまずかったか、などと思う自分に溜め息しか出なかった。 . [*前へ][次へ#] |