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泣いて暮らすも一生笑って暮らすも一生:
3

『……』
「……」
『…………』
「……」


「有り難う」と言ってから急に静かになったので不思議だなぁと思ってるとしばらして甲斐谷さんが我にかえったのか電話越しに息を飲む。

『ッば、馬鹿かオメェ。…そんな声出すな。つか、字だったよな。えーと…やり甲斐とかの甲斐に谷底の谷、分かったか?』

自分では普通に言ったつもりだったが甲斐谷は何故か急に焦った様な、困った様な声を出した。
そんな少し不安そうに言葉を紡ぐ、彼。
俺の声は自分自身でも気付かない程、甘ったるい声になっていた。


甲斐谷、さん、か。

名前教えて貰ったら、今、俺が伝えたいのは。

「また電話する、よ」

今度は会いたいんだけど、な。


『断定系かよ。…でも何かオメェは嫌な奴じゃねェから別に構わねェけど』

……普通、嫌だ。とか言うとこじゃねぇの?
さっきも名前を案外スンナリ教えてくれたし。
しかも律義に漢字まで説明してくれた。
俺が聞いた事なんだけどね。
本当に面白い人。

ただ、騙されやすそうだなぁ。

「…嫌な奴じゃねぇって分かるんだ? 何で? すげぇ悪い奴だったらどうすんの?」

『あ? つか、すげェ悪い奴はンナ事言わねぇ』

「だから何でそんな事わかんの?」

『……カン。』

少し恥ずかしそうに聞き逃しそうな声でポソッと言う彼、もとい、甲斐谷。

カン…か。


「そか。……甲斐谷、ぉ『呼び捨てにすんじゃねぇよ』
…さん…俺アナタの事好き…、かな」

そう言えば、甲斐谷、さんは大学関係の人だった。
だから、高2の俺より上。なはず。
でも、何で俺が年下だって分かったんだろ。
もしかしたら物凄く年取ってる? のかな?

『……はぁ?』

声は若いんだけど。
声だけじゃわかんねぇか。

「甲斐谷、さん、……バイバイ。また、な?」

『ぇ?! お、――』


ツーツー…



………甲斐谷、スナオ、さん。




これが俺と彼の出会い。

一本の間違え電話から始まったんだ。俺達は。






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