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泣いて暮らすも一生笑って暮らすも一生:
2

なんとなく、この留守電の彼に興味がわいた。
間違え電話を貰ったのが初めての出来事だったから。
否、普通間違えたら謝りの留守電はいれないだろう。
少なくとも俺はいれない。
そんなトコに興味をひかれた、のかもしれない。
それとも最後の声を可愛いと感じたからなのか。

なんにせよ。留守電を聞いた豊水 名(ホウスイ ナヅク)が留守電の彼に興味を抱いたのは事実。


そして、着信履歴の一番上に位置する電話番号に電話をかけた。




「もしもし」も無しに開口一言目が『テメェ誰だ?』。
心底嫌そうな警戒した声で。
知らない人からの電話が嫌なら出なきゃいいのに。

変なの、でもやっぱ彼は面白い。

それに出てくれてよかったとか思っている俺が言える立場じゃないよね。


「豊水。…アナタに間違え電話貰った者、かな」

『あ、あぁ。その件については留守電にいれたはず、ですが?』

「聞いた。かな。…提案。アナタに会いたい」
急、過ぎたか?
焦った。かも。

『…はァ!!?』

やっぱ、そうくるよね。
でもこれが本音だからいいか。

「会いてぇから家、教えてくれる? …、かな?」

『…オメェ何言ってんのか分かってんのか? 電話の件は謝っただろが。すいませんでした』

「電話…」
それは関係ねぇんだけど…あ、――。


「あのさ、電話かかってきた事で先生にバレて怒られたんだ。それで内申ヤバくなったんだ。それでも会ってくれない? …かな? 僕、貧乏だから推薦貰えないと大学イケないんだけど」

ふ、とそんな事はあるはずもない嘘をついた。
ただ、カマをかけてみた。だけ。

彼がどんな反応をするか、考えながら。
周りの俺の話を盗み聞きしていた奴は「え、嘘?! 豊水クン…」等ほざいている。
何、聞いていんだよ。
キモ。うっざ。


『……話の脈絡がよくわかんねェけどそれ、本当か?』

携帯を右手に、左手に空っぽと言っていい程軽い鞄を持ち廊下側に座っていた空也に帰ると声を掛けて教室を出た。
空也の奴すげぇ驚いていたけど無視。


廊下を歩きながら黙っている俺に彼が「どうなんだよ」とか「…本当か?」とか小さく呟く声を聞き、バレない様に軽く笑う。

「本当…、かな」

嘘だよ。
実際に俺は内申なんかに興味はない。
と言うか、どうでもいい。
内申なんて気にした事なんて露ほどもない。
しかも貧乏だったらこの坊ちゃん学校にはいねぇ。


『かなって何だよ!? つうか、オメェ内申ヤバいのと俺と会うのがどう関係あんだよ』

…この人ホントに変わってる。
確かに関係ない。
この人の言っている事は正当な事だ。
ただ俺は謝るかと思った。人間ってそんな物だと思っていたから。

でもこの人は違ぇ。


俺は――この人に会って話をしてみてぇ。



「アナタに会えたら内申なんてどうでもいい。と言うか、チャラ。……家が無理なら名前」

『名前ェ?』

「教えて。僕は教えたよ?」

『…それズルくね?』

「名前」

俺が催促すると彼はあー、うーん等言いつつ渋々口を開き、名前を言う。

『……甲斐谷(カイタニ)。オメェは何かずりィな』

「何が? …なぁ、どんな字? カイタニって」

『声がずりィ。つうか、オメェはホウスイだっけか?』

声? …声がずりぃって初めて言われた。
それより、名前。
「覚えたんだ? 有り難う」

皆、簡単に覚えてくれる名前だから嬉しいなんて思わなかった。けど、この人に覚えたと言って貰えて嬉しい。
と初めて思った。

……何でなんだろ。




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あきゅろす。
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