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短篇集
02


と、いうわけで

翌日、朝から望は雪里の家に訪問。

『…何しに来たんですか?』

『今日は雪里さんと話したくて』

『迷惑なんで帰って下さい』

『!?…嫌ですッ!!』

そして無理矢理雪里の買い物に付き添うという暴挙に成功。

『これから買物に行く予定ですけど』

『じゃあ一緒に行きましょう』

『(…何でよ……)』



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

買物に出てからというもの、いかに自分が恵まれておらず、いかに日々日常的に絶望しているかを隣で力説。
語る望の顔は実に楽しそうだ。
雪里は全く相手にしていないようだが。


「ね?絶望するでしょう?」

「……」

――貴女で入場者百万人目です!こちらの景品を差し上げます

「あー、…どうも」

「雪里さんで百万人目!?偶然ですねぇ」

「別に…」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ザァーーー

「あれ?あ、雨ですよ、雪里さん」

「通り雨?」

「傘何て持ってませんよ!どうします?」

「…この間持ち帰り忘れた折り畳み傘を持っています」

「そうですか、良かったですね。たまたま持ち帰り忘れて……」

「入れてあげます、どうぞ」

「ありがとうございます。雪里さん」

「…糸色先生が風邪引かれたら明日の授業、皆困りますから」

「あ、ありがとうございます!!」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ね?あなたも同情してしまうでしょう?」

「いえ、同情と言われても…」


――大当り〜〜!!!一等賞のお嬢ちゃんにはこの景品だよ!


「またですか!?幸運にも程があります!!」


商店街に高らかなベルの音が響き渡った。
本日三度目の福引き。雪里が回した福引きはいずれも大当りだった。
そんな一般人であったならば驚くであろう出来事も、雪里にはなんのその。さも当然だとでも言うように、慣れた手つきで景品をおじさんから受け取っている。

望はその姿を目の当たりにして衝撃を受けた。
同じ人間であっても彼女は人生の勝ち組。対して私は人生の負け組。私達は決して相容れてはいけない対極の存在なのか!?



「私が間違っていました」

望の声のトーンがいきなり低くなったのに雪里は無表情で望を振り返るだけ。
気にする素振りや焦った様子を微塵も感じさせない。その態度はまるで望の事なんかどうでもいい事なのだと言っているようである。

(そんなに私が嫌いですか?心配しないんですか?)

望は淋しさを感じた。


「雪里さん、嫌がっているのに付き纏ったりしてすみませんでした…。だいたい―」

そうだ。
別にこの子に私という存在を理解してもらわなくたっていいじゃないか。
どうしてこう意地になって振り向いてもらおうとしてたのだろうか。それじゃあ、まるで……

「幸運という性質を持っているあなたに何を言っても理解を得られるわけが…「望先生」…はい?」

雪里に手を握られた。
突然のその行動に望は驚いた。今まであんなに欝陶しそうにあしらわれていたのに。
一体どうしたというのか。

「先生…もし、先生が恵まれない人だとおっしゃるなら、一生、私を、」

「一生、私を?」

「一生、私を………」


雪里のどこまでも真っ直ぐな瞳が望の瞳を貫く。煌めく瞳に望の心臓の鼓動がやけに早まる。




「私を隣におけば幸運になれます!!!」



「それに!
……今日は先生と一緒にいるのも嫌いじゃなかったですから……」


そして雪里は顔を耳まで真っ赤に染めて走り去って行った。

(…私の隣に一生雪里さんを置く?)

「え?今のプロポーズですか?」


いきなりの問題発言。放心状態からなんとか立ち直り心を落ち着かせる。
すると、何故か雪里に握られた手に違和感を感じた。その右手をそっとひらくと、紙が一枚、くしゃりと丸まって手の中に収まっていた。

(雪里さんから私へ?)

少々シワがよってしまった紙をのばしてよく見る。


“ペアで行くハワイ旅行券”


「え?……ハネムーン?」

さすがにこれには驚いた。
私にくれるんですかね、コレ。
(気が早過ぎではないですか?)


「それに…嫌いじゃなかったって……私と居て楽しかったと受けとっていいんですね?」
(私はそう受け取りますよ?)

ほっと安堵感が広がっていく。彼女に嫌われてない。それだけで身体が一気に軽くなった。
たかが一人の生徒に自分はここまで入れ込んでいたのだろうか。彼女の態度の変貌に戸惑って、彼女と楽しく話す男子生徒に嫉妬して……



分かった。

雪里さんの変貌に寂しくなった訳。
雪里さんにどうしても笑顔を向けてもらいたかった訳。

(簡単過ぎるじゃないですか…)


雪里に貰ったチケットを大事そうに懐に仕舞い込み、素直じゃない彼女にどう告白しようか、と計画を練りながら望は幸せそうに帰宅した。

あ、週明けに智恵先生に相談しよう。
恋愛相談にも強そうですからね。






どうしてこう意地になって振り向いてもらおうとしてたのだろうか。
それじゃあ、まるで……


彼女に恋してるみたいじゃないか




END



09.01.25   
09.03.02 加筆修正

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