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短篇集
01

“魔王”と後世に名を残した貴方は、もう私の目の前にはいない。私はただ貴方と共にこの汚れきった世界をナナリーの望んだ“優しい世界”に変えたかっただけなのに、

何処で間違ってしまったの…?

ほら、見て!
もう世界は“優しい”世界に近づいていっているの!

――貴方を一人、闇に放り込んで





“優しい世界"を切望した貴方が“優しい世界"をその目で見れないなんて、これも罪の代償でしょうか。
私は今“優しい世界"を目の前にしている。
けれど、貴方が居ないものだから世界は酷く色褪せたモノにしか見えません。

こんな世界、望んだ覚えはない。






あぁ、貴方は寂しくないかしら?
貴方は寂しがり屋だから。

私は寂しい
寂しいの…………

貴方を想うと涙がこぼれ落ちる。



貴方の親友のスザクは立派に役目を果たしています。貴方が頼んだ通り、忠実に。
ゼロレクイエムの真実を知っている者同士、傷を舐め合っている、とも言えるかもしれない。
スザクは昔と変わらず優しい人。執務に追われていても私を気にかけてくれる。
でもね、スザクは居るけど“スザク"じゃないの、世界を貴方から護った救世主である“ゼロ"なの。


ゼロの中身はスザク

ゼロの中身は貴方じゃない

中身は移り変わってしまった


この事実を思い知る度に私は“優しい世界"が嫌になってしまう。

“優しい世界"を壊したくなる。

何も知らないで平和に浸かる民が憎くなる。

貴方こそ優しい人なのだと伝えたくなる。

でも言えない、
そう口にしてしまえば、貴方が命も名誉も捧げて作り上げた世界が崩壊するから。


貴方に言われたよう、『魔王に囲われていた悲劇のブリタニア皇女』として生きている私。貴方が皇女であった私を表では捕虜として扱っていた御蔭で民衆はその事を真実だとすっかり信じて、愚かにも私に同情し、涙してくれる。

私と貴方の間に愛が芽生えていたことを知る人物は関係者のうち数名のみ。

何処に居ても貴方への想いを公に吐露して良い場所は何処にも無い。

だって、世界を敵に廻したからね、貴方。


悲劇のヒロインを演じるのも馴れてしまった。初めて貴方を魔王だと非難し、貴方を殺し、私を救ったゼロは英雄だと民衆に語った時は、自分の喉元を切り付けて仕舞おうかと思ったのに、今は口が勝手に動いて躊躇することもない。

貴方はゼロレクイエムの前日、私に事前に言う事もなく、スザクに掛けたものと同じく「生きろ」とギアスを私に掛けた。
寂しさに負けて自害を謀ろうとする度にギアスが発動する。

死ねない

深い心の傷のために自傷行為を繰り返す悲劇のヒロインの出来上がり。民衆はそう信じている。自殺未遂の真相など彼等は知るよしも無い。


もう逃げ出して、さよならしたいの。

至る所に貴方の跡が垣間見える世界から

貴方を犠牲に創られた世界から

愛さなければいけないのに、貴方を怨む民衆を愛せない自分から

この世では貴方と会えない事実から


…貴方の死を受け入れられない自分から



でも、それは望んではいけないことなのでしょう?
だから貴方はギアスを掛けた。
私を大切に想うがゆえ。

それは貴方が私に遺した私と貴方の罪の形、一種の愛の形

ギアスは私と貴方を繋ぐ戒めの鎖

ギアスだけは私を置き去りにしない

ギアスは私から消え失せる事もない

ギアスは移り行く世界の中でも決して私だけ取り残して変化しない

ギアスは私と愛するルルーシュを繋ぐ、切れる事のない絆



だから今日も私は貴方への愛を唄いながら、貴方との繋がりを感じたくて死を選ぶ



『待ってて、ルルーシュ。今ユキサトがお傍に………』


だって、ほら、私には聞こえる…彼の声が…彼も、ルルーシュも寂しがってるもの!……きっと彼は私にギアスを掛けたことを後悔している!!私を待っている!!


『さようなら、みんな………お幸せに』




この繋がりだけは断ち切れない




そして、

今日も死ねずに

私は一人、

咽び泣く。




09.09.05 掲載



あきゅろす。
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