短篇集
けーあいえすえす
「雪里殿!」
「おー幸村、どした?」
「きすとはなんでござるかっ?」
すかさず俺は固まり、暫し間を置いてから、幸村の後ろで冷や汗を垂らす三日月野郎にぐるんっと頭を回し、眼光を光らせた(あー、首、嫌な音した)
けーあいえすえす
(まったく、有得ない!)
「政宗ぇ?」
「お、俺は何もしてねぇっ!」
全力で否定するかの如く首を振る(そりゃ取れるんじゃないかと思う程に)
それでも尚、
俺は政宗を責める。
「あんな純粋な子がお前じゃ無かったら誰に教わったってんだ!!」
「俺は真田にkissした事あんのかって聞いただけだ!」
「っやっぱりお前じゃねーか!!」
そう言い放って政宗のを一発蹴る。
うっ!!!、と呻いて政宗は蹴られた部位を庇うように廻廊に膝をついた。
「お、お前…!使い物にならならくなったらどうすんだ!責任取れよ!!」
「取るか!!!」
言い放ってから幸村にもう一度向き直る。
政宗は後ろで何か叫んでるが気にしない。
がしりと両肩を両手で掴み、逃がさないようにする。
「幸村は多分知ってるよ。きすの意味」
「? 知らないでござるよ?」
幸村ならそう言うだろうと予想していたから俺はつい頬を緩ませた。
政宗は俺を見て、あぁコイツ何か企んでやがる、て顔をしていた、蹲りながら。(ちょっと罪悪感が襲うが相手は政宗だからそう気にもしない)
我ながら酷いな、うん。
幸村は円く、穢れの無い瞳をひたすら俺に向け、きすの意味を教えて貰おうと行儀良くしていた。
それがまた可愛くて政宗と見比べてしまう。
あ、決して政宗が可愛く無いと言っている訳じゃ無いぞ。
唯可愛さでは幸村が勝るから。
政宗は綺麗とかそっち系だと思うしな。
と勝手な見解を述べてみる。
「幸村、きすの意味知りたいか?」
「知りたいでござる!!」
いよいよ教えて貰えるのかと幸村は興味津々な瞳を耀かせた。
俺はその様子を見て、笑う。
「じゃ、実践」
やけに鼓膜をしっかりと叩いた言葉と近付く雪里の顔に幸村は瞳を見開いた。
感じる微かで確かな熱。
それは唇の合わさる感触。
「接、吻……?」
幸村は未だ現状を受け入れてないかの如く、辿々しく言葉を紡いだ。
その様子にまた笑う。
「そう、接吻。知ってたろ?」
にやり、と意地悪く微笑ってから和訳した。
「なななななななな…!!!」
幸村は面白い程にどもり、頬を紅潮させる。
流石に遊び過ぎたか。
心の中で己に叱咤しつつも、躯は純粋な幸村の様子を楽しんでいた。
「おま……普通公衆の面前で堂々とkissするかよ」
「幸村が可愛くて、つい」
悪びれも無さげに目を細めた。
「雪里殿!!」
幸村は顔を真っ赤に染め上げながら俺に向かって吠えた。
尾の毛をぶわっと逆立てて(勿論幻覚)怒っている様。
「悪い!!ちょっとした、出来心で!」
キャンキャン吠えられたり、威嚇される前に即座に謝った。
「某と接吻するなど!!接吻は将来を共にする相手とだけする物だと聞いた!!雪里殿は某と結婚する勇気があるのでござるか?!その気があるのならば言ってくれれば早々に婚儀の用意を致した!!……と話が逸れたが接吻は将来を共にする者とのみ!!ましてや雪里殿は嫁入り前!!気安く男と接吻するんじゃありません!!!!!」
「…………」
ノンブレスでオカン発言。
ま、まさか幸村に説教されるとは…
人生初の快挙だ。
思わず正座してしまったではないか。
じゃなくて、
「佐助!!佐助だろ!このオカン言葉を伝授したのは!!」
くわっと顔に幸村に向ける表情じゃ無い恐ろしい表情を作り、幸村から顔を逸らした。
もろにその顔を政宗は見たが(笑いを堪えていた)、まぁ良いとする。(後でどうにかして記憶は消させてもらうが)
此の時代にカメラが無くて良かった。
あの顔が後世に残られたら色々と困る事が有る。
(例えだけど嫁の貰い手が消えるとかね)
「し、仕方無いでござるな………接吻してしまったのは紛れも無い事実…雪里殿、結婚しましょうぞ!」
はた、と一瞬時が止まり俺は幸村の、羞恥からか赤く染まる顔を呆けた顔で覗き込んだ。
「え、え、え、え、え?ちょい、待って!?」
「そうと決まれば早く婚儀を!!お館様ぁあぁああぁ!!!幸村は雪里殿と結婚致しまするぞぉおぉぉお!!!」
「人の話を聞けぇえぇぇえ!!!」
妻になっちゃいました
(何か……めでてぇな、雪里)
(政宗のせいだ!!絶対!!)
(まぁまぁ、結局両想いだったんだろ?終わり良ければ全て良しじゃねぇか)
(………なんか巧く丸め込まれた気がする…)
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