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短篇集
01


学生時代に私の両親の都合で引越してしまってから連絡しか取っていなかった私と吉良。
所謂遠距離恋愛である。

そして本日、やっと此処に帰って来た。
吉良もきっと喜んでくれるはず…!!


「雪里、全然手入れしてないだろう。髪が傷んでいる!」

吉良もきっと喜んで……

「雪里、僕が居ないからといって日々の努力を怠るなと言っただろ!!」

よろこ……

「――デスいっっ!!!!」

「なっ…!会って開口一番にその言葉!?」

吉良は恋人との出会いを喜ぶ以前にカリスマ美容師としての目線を優先したようだ。
酷い。信じらんない。

それにしても、

「デスい?…暫く会わないうちになんつー言葉を…「今時珍しい。そこら辺の女の方が気を使っているな。すなわち、お前は女を捨ててるも同然だ!!」……うそ!!」

そこら辺?と言われました?
そこら辺と言って吉良の向ける目線を追って窓の外を見る。と、中年のレディ達が会話に花を咲かせているようだった。

つまり、吉良ビジョンでは…―

『私=中年レディ=not♀』

そんな!!!!!
吉良、あの方達に失礼だよ!!
それに私のダメージも相当大きいよ!!
まだ20代なのに。何て事言うのさ。

固まる雪里を尻目に更に続ける。

「女としてどうなんだ、このざまは。…昔からそうだったがな」

吉良は遠い目をして過去を振り返り始めた。

昔の私?昔はそうね…
毎日泥だらけで、男の子みたいな格好して、常に何処かに傷をつけてたなぁ。
確かに今も外見を気にする人間ではない。
でも、彼氏に女としての魅力が無いと思われて平気な訳ではない。私だって、それなりの乙女心は持ち合わせているはずだ。

「女なんだから少しくらい自分を大切にしろ…目の下のクマが隠しきれていない」

そう言う吉良の手入れのいき届いた指先が私の目の下に触れる。

その細長い指先からして、私と吉良では、吉良の方が気を遣っているのが誰にだって明白だろう。
改めて吉良を見た。
やはり、全身に気を遣っている事が読み取れる。髪も肌も服装も至る所に。
自分を磨き続けている彼。外見にまで手が回っていない私。
差をつけられたようで寂しい…

雪里は情けない笑顔を見せた。

「だって、…吉良に早く逢えるようにするために仕事押したんだもん」

寝る暇が余りなくて、なんて雪里が言っている。
僕の為とはいえ…

「本当にお前は………」

呆れた、と思わず溜息をついてしまった。

失望されたと思ったのか、雪里が寂しげに目を細め泣きそうな顔をした。

「な、何よっ!!言いたい事があるならハッキリ言ってもいいわよ…。どうせ私は美しさなんて…」

震える声で拗ね始めた雪里に吉良はまた溜息をついた。

(何よ、久し振りに会えたんだから少しくらい優しくしてくれてもいいじゃない。吉良に会えるの物凄く楽しみにしてたのに…。
私だけだったの?会いたかったのは)

涙がこぼれ落ちる。
あれ?泣くつもりはなかったのに。
雪里は涙を見せたくない一心で吉良に背を向けた。

すると、

「お前は馬鹿だな。何故泣く」

不意に後ろから抱き寄せられた。
驚きで涙が引っ込む。

「僕の為に自分の身体を雑に扱うな。それでなくとも、お前は自分を顧みない傾向があるからな」

――え……?

「吉良…私の心配をして言ったの?嬉しいな」


甘〜い雰囲気が部屋中に広がった。
うん、私が求めてたのはこういうのよ!!



「―…しかし、今日からはそれも問題無いな」


「――は?」


吉良が急に雪里から離れた。振り返ってみると、若干顔に赤みがさしている。

「これからは僕が雪里の傍に居るからお前が【美】に気をつける必要は無い。
お前は黙って僕に任せていろ!明日からスパルタだ!」

そう言い放つ吉良の目は急に輝き出した。
相変わらず【美】にこだわるのか。
さっきの甘い雰囲気は何処に?

今度は雪里が溜め息をつく番である。


「あぁ、それと、吉良と呼ぶな。
今更お前に苗字で呼ばれるのは気持ち悪い。
名前で呼べ」
「!!!――気持ちわっ…!?」
「昔は僕が止めろと言っても呼んでいただろ?」

吉良、いや、ま、雅伸が急に顔を覗き込んで来た。近い!!!

「わ、分かったわよ!ま、雅伸!!…慣れないな〜」
「早く慣れることだな」
「そうだね、…ま、雅伸」
「噛みすぎだろうが」

泣き顔から笑顔にすっかり戻ったようだ。
それを見て吉良は雪里見えないように口元を緩ませ微笑んだ。
それは彼女をとても愛おしむようだった事を彼女は知らない。




「――恋人に早く会いたかったのは、お前だけじゃないんだぞ…」







吉良は隣でわたわたと恥ずかしがっている雪里に聞こえない程度の音量でそう呟いた。

「雅伸、今何か言ったかな?」
「何も言ってない。とうとう耳まで老化したのか」
「してないよ!!酷いな!」

雪里をいつものようにからかいながら、吉良は幸せを感じていた。


ツンデレも大概に

じゃないと、
(泣いちゃうかもよ?)





END





こんなに甘い吉良は吉良じゃないような…
けど、ツンデレ最高ーーツンデレ万歳ーー


09.01.11
09.03.04 加筆修正


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