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鈍感先生と絶望先生
01


――ストーカー…

望は目の前の少女を見ながら伝えられた言葉を反芻した。
それは生徒が警察の厄介になったと聞いて職員室に駆け込んだが、まさか"ストーカー"が原因だとは思いもしなかったからだ。
次から次へと明るみに出る生徒達の恐ろしい本性。御勘弁願いたいと深刻に悩みつつも、詳しく話を聞く為に常月まといにソファーを薦めた。

「…で、具体的に何をしたんですか」

「はい、えぇと…」

頭を抱えたいところを我慢し、隣に腰を下ろした蘭乃にそう問うた。それを受けて蘭乃がおもむろに手帳を開き出す。
なんでも昨晩警察から連絡を受けたのは蘭乃さんだったらしく、夜中まで仕事をしていて学校に残っていたからだとか。その話を聞いた時、『夜遅くの帰宅だなんて危険すぎる』と最もらしい理由にかこつけて蘭乃さんと一緒に帰宅しよう、と密かに意気込んだのは内緒だ。
今はストーカー問題が先である。

「…警察の方からの話ですと、別れた男性にしつこく付き纏い、無断で合い鍵を作製し家に侵入した、との事ですね」

「なるほど…」

受け取った電話の内容をそのまま読み上げ、パタンと愛用の手帳を閉じた。

「…ひきこもりの次はストーカーですか。なんなんですか、うちのクラスの生徒さんは」

――厄介なのは私一人で十分です…

ボソッと呟いてみた。
蘭乃は苦笑いを浮かべながらも望を宥める。

(ほら、厄介者が私一人であれば蘭乃さんの優しさだって独り占め出来るのに…!)

意気消沈の様子のまといをあまり説得力が感じられないながらも『大丈夫』と連呼して励まし出した蘭乃を横目に、教師という立場を忘れた望は悔しそうな表情を浮かべ外を眺める。すると今まで黙っていたまといが口を開いた。

「…私……ダメなんです。好きになるとその人の事が一日中気になって仕方ないんです」

「好きになると?……そう…」

そう語り出す彼女はこの特有ので偏った愛の表現、つまりストーカー行為に至った動機を理解してもらおうと必死に弁解をし始める。
蘭乃に続き望も真剣に耳を傾けた。

「…5分おきに電話をかけてしまったり、電話しながらメールしたり、急にどーしても会いたくなり深夜に押しかけたり、行動が気になって盗聴器仕掛けたり!!」

一気にまくし立てる。は、いいが…背筋の寒くなるような愛情表現ばかりだ。
被害者さん、…御苦労様です。

「それはそれは立派なストーカーですね」

(此処はガツンと言ってやらなければ再犯の恐れがありますからね)

そうすっぱり言えば、私の答えが気に入らなかったのか常月さんは頭を振り、次は縋るように蘭乃さんを見た。どうにも蘭乃さんがその過多な愛情表現に賛同するのを期待しているらしい。まさか、する訳がないでしょうに。

『貴方は正真正銘迷惑なストーカーです!!』とは宣言しにくい雰囲気と常月さんからの無言のプレッシャー。そして黙り込んでしまった蘭乃さん。

(言いづらくて悩んでいるのでしょうか?)

生徒想いの蘭乃さんの事だ、下手に傷付けたくはないのだろう。
望は心配して助け舟を出した。

「私は迷惑なストーカーそのものだと思いますよ。ね?蘭乃さん?」

すると蘭乃は首を捻った。

「…望先生、ストーカーって一体何なんでしょう?」

「……え?…今、何と?」

「ですから、ストーカーさんは何でそのような行為をしてしまうんでしょうか?」

これには口をだらし無く開けてポカーンとするほか私達には残されていなかった。



 

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