鈍感先生と絶望先生
01
絶望事件から数十分後。
蘭乃は何故か自宅の向かいのお宅の前で固まっていた。
(あれ……?ココ、よねぇ…)
そこに到るまでを遡ってみよう。
逃亡直後、蘭乃は生徒達の後ろ押しもあって望を捜しに出た。
叫んで出て行った後の行方は分からない。
とりあえず、荷物も持たずに学校外に出ることはまずないはずだと決めつけて、職員室へ向かってみた。
向かう途中、辺りを見回してみるも、元来授業中の時間帯であるために、糸色先生どころか人一人も廊下にはいない。
(やはり校内にはいないか……)
職員室に入る。
案の定、
今朝望に割り当てられた教員用のデスクには朝まではあった望の荷物は無かった。
「となると帰宅されたのかな?」
偶然職員室に居合わせていた智恵先生なら鞄を取りに来たはずの糸色先生の行方が分かるかもしれないと思い、聞いてみた。
智恵先生とは教師仲間で一番仲良くさせてもらっている。
私は良い友人を持った。
「智恵!」
「あら蘭乃、授業中じゃないの?」
その通りだ。
通常ならば楽しい授業をしているはずだったのに、イレギュラーが発生してしまったのだ。
「そうだけど、糸色先生が――」
蘭乃は糸色先生逃亡事件の全貌を細かく説明した。
改めて話すと、彼は自分に負けない位、本当に世話のかかる人だと思う。
「ということで、
私は糸色先生を捜しているわけです」
「そういうこと…。
でも私は行き先なんて知らないわ」
智恵先生は大きな溜息をついた。
(呆れた、初日から逃げ出すなんて…)
「それで?
これから蘭乃はどうするの?」
どうしよう…やっぱり糸色先生は御自宅に居るかな。それならば…
「私は糸色先生の自宅に訪問したいと思います!!」
きっぱり宣言する蘭乃に智恵は驚いた。
「蘭乃!?……流石に初対面の男性の家に女性一人で行くのはちょっと……」
「いけないの?」
「……いけないというか……キケンというか……」
「どうして?糸色先生はいい人だったよ?」
蘭乃の子供のような純粋な目で『どうして?』と聞かれて、『男と女というものはね…』なんて話せるわけもなく、智恵は言葉に詰まった。
(なんでこの子の家では常識というものを教えてこないの?!)
度々常識外れな事を言い出す蘭乃に色々苦労したことは記憶に新しい。
(こういう者には今更何をいっても無駄。
まぁ初日から逃げ出す男が易々と襲う訳がないだろうし…)
智恵は望を信頼して、蘭乃を望に差し出す事にした。
「…わかった。
糸色先生の自宅に行って、しっかり教師としての自覚を持つようにと叱ってきなさい」
「はーい」
疲れた顔をする智恵とは逆に、蘭乃は楽しそうな顔で教頭のもとで糸色先生の住所を聞いていた。
「心配だわ。
糸色先生、何かあったら、その時は……」
それと同時刻。
さっさと自宅に帰宅し、落ち込んでいた望は何処からかやってきた寒気を感じて一人怯えていた。
(寒っ!!…一体何なんですか…!?)
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