3話
ツナの二者面談が終わるのを、獄寺と二人で放課後の教室で待っている。
俺達以外にはクラスの女子が数人いて、さっきから小声でこそこそ話したり、感極まった声をあげたりお喋りに忙しいみたいだ。
獄寺は、時折その声に、うぜぇと眉をしかめる。
俺はというと、店や部活で慣れているせいか、人の話し声はあまり気にならなかった。
「先輩も別れちゃったの?!」
その大きな声には俺も思わず反応してしまった。
獄寺は、チッと舌打ちをしてから、
「山本、場所変えようぜ。」
そう言って教室を出て行ってしまった。
俺もその後を追いかける。
扉を閉めた背後から女子の声が小さく聞こえた。
それぞれの高校で好きな人出来ちゃったんだって。
進路指導室へ続く廊下を、ゆっくり歩く。
廊下の大きな窓から見える外の景色には、葉っぱの落ちた木と、くすんだ色の花壇。
前を歩く獄寺が、肩を強張らせながら、さみぃ・・と小さく呟いた。
「獄寺、好きな奴とかいんの?」
人気のない廊下に俺の声は良く響いた。
さり気なく聞いたつもりだったけれど、あらかじめ用意された台詞を読んだみたいでワザとらしい。
「興味ねぇ。」
間髪入れずに獄寺が応えた。
振り向きもせず、吐き棄てるように、たった一言だけ。
いない、じゃなくて。
興味ない、のか。
俺は何だかホッとして、力が抜けてしまって、思わず変な笑い声が出てしまった。
「なぁ、それってボンゴレが恋人ってヤツ?」
冗談っぽく言った俺の言葉に、あったりめーだろ!と獄寺は大真面目にそう応えた。
たどり着いた進路指導室をそっと覗くと、まだまだツナの面談は続いているようだった。
こちらを向いて座っているツナが俺達に気付いて、申し訳なさそうに、口の動きだけで、
さ き か え っ て
と伝えてきた。
「俺はもう少し待ってる。」
予想通りの獄寺の行動に俺も当然の様に付き合う。
煙草が吸いたいと言った獄寺と一緒に屋上へ向かった。
屋上には、この間の陽気が嘘のように冷たい風が吹いている。
少しでも風をしのげるようにと給水塔の影に二人で並んで座った。
煙草に火を付ける獄寺の指先は寒さで青白くなっていた。
俺の指とは全然違う細い指。
たまに触れる厚みのない肩から微かに温もりを感じる。
「・・・俺も。」
沈黙を破った俺を獄寺が横目で見た。
「俺もボンゴレが恋人って事にする。」
銜えていた煙草を口から外し、灰をコンクリートに落としてから、今度は両目で俺の顔を見た。
「馬鹿な事いってんじゃねーよ。」
少し怒ったような声。
獄寺はまた煙草を銜えなおして、それから空を仰いだ。
「どうせ高校入ったらテメェはすぐ女つくるんだろうよ。」
強い風が吹いてフェンスが激しく音を立てた。
ああ、まただ。
また、うまく息が出来ない。
「そんな事ねぇよ。」
声を震わせながら絞りだす。
ご く で ら が す き だ
さっきのツナの真似をして、そう呟いた。
声にならない言葉を。
だけど獄寺は空を仰いだままだったから、俺の気持ちは伝わらないんだ。
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