2話




日曜日の図書館は俺達みたいな学生で一杯で、自習用の椅子とテーブルを5人分確保するのは中々大変だった。
余りに静かな場所に俺は落ち着かなくて、さっきから黙ったままの隣の獄寺をチラチラ見ているんだけど、どうやら構ってくれなさそうだ。
その獄寺はというと、向かいの席に座る2人の様子を伺いながら、白紙のノートをシャーペンで軽く突いている。

ツナの部屋でしていた勉強会を、今日は町の図書館でしている。
いつも笹川と黒川がここで勉強をしていて、ランボが煩くて集中できないと言っていたツナに笹川が声をかけたのだ。

時折低い唸り声を出しながらツナが教科書を睨むと、隣の笹川が一緒にそれを覗きこみ、小声で何かを教えてあげているみたいだ。
ツナは笹川との距離が近くなったのに緊張しているのか、笑顔が震えている。
その度に笹川の、そのまた隣に座る黒川から怒られている。
そんな事もわからないの?京子甘やかし過ぎよ!とか。
・・・まるで獄寺みたいだ。


「俺、調べ物あるんで本探してきます。」

そう言って、急に獄寺が席を立った。

「ここ結構広いけど場所わかるかな?辞書とかなら一階の奥なんだけど。」

立ち上がった獄寺にツナが心配そうに声を掛けた。

「案内図ありましたし、ゆっくり探しますから大丈夫です!」

明るく笑ってから、獄寺はそう答えた。

「俺もシラベモノ行ってくるな!」

俺も慌てて席を立ち、驚くツナ達を尻目に、遠ざかる獄寺を追いかけた。
天井まで届きそうな本棚が連なっていて窮屈な場所だな。
早足で歩きながら、そんな事を思った。
今までの自分だったら絶対に来なさそうなのに、俺はここにいる。


獄寺が足を止めたのは、2階の端っこで、よくわからない難しそうな本ばかり置いてある所だった。
もし、なんで来たのか?って聞かれたら上手い答えが見つからない。

「なんで来たんだよ?」

追い付いた獄寺に聞かれてしまった。

「ん〜〜。シラベモノ?」

上手く返事が出来なかったけれど、獄寺は、そうかよって呟いただけで、それ以上何も聞いてこなかった。

題名を見ても内容がわからない本を取り出してはパラパラとページをめくってみる。
やはり、わからない。
第一使われている漢字が難しすぎて全く読めない。
同じように隣でページをめくる獄寺の横顔は真剣で、ああやっぱり獄寺は頭いいからなぁって思った。

獄寺君、せっかく頭いいのにさ、俺と同じ高校でいいのかな?
同じ学校なのは嬉しいんだ。でも少し勿体ない気がする。

いつかツナがそう言っていた事がある。

「獄寺、本当にツナの事好きなんだな。」

「・・は?」

眉をしかめて獄寺がこっちを見た。
俺は読めない本に視線を戻して続けた。

「俺もツナは親友だし大好きだけどさ。獄寺は同じ学校行くんだもんな。」

ツナは笹川と同じ高校を受ける。
獄寺もそこへ行く事を決めた。
・・・当然のように。

「好きとか・・そんな軽いもんじゃねぇよ。俺はいつでも十代目をお守りできるように同じ学校に行くんだ。」

予想通りの返事に俺は、そうだよな!って笑って。
さっきの獄寺の表情を思い出した。

「つーか、お前の調べ物はいいのかよ?おおかた野球の本か何かだろ?」

「・・・そうだった!獄寺さ、一緒に探してくれねぇか?」

嫌そうにブツブツ言いながらも、獄寺は途中まで読んでいた本をパタンと閉じて棚に戻してしまった。

「仕方ねぇな。とっとと探すぞ。」

横を通り過ぎた獄寺の顔は、呆れているような、だけど頼りにされてるのが嬉しいみたいな、とにかく明るい顔をしていた。

さっきより、ずっと近い距離を保ちながら二人で歩く。

「お前、部活引退しても相変わらず野球の事ばっか考えてんだな。」

前を歩く獄寺がそう言った。
俺は笑って返したけれど、そうだとは決して返さなかった。
だって俺の頭の中、獄寺で一杯なんだ。
さっき席を立った獄寺の一瞬の表情を俺だけが見逃さなかった。
獄寺について来たのは、野球の本を探しに来たんじゃない。

獄寺が悲しい時や辛い時に少しだけでも傍にいたかっただけなんだ。














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あきゅろす。
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