1話





相変わらず、とか。
いつも、とか。


それらの言葉は、しばしば俺を冷たい水の底にゆっくり沈めていくような、そんな力を持っていた。
彼からしたら、それは何気なく向けた言葉の一つなのかもしれない。

だけど俺は怖かったんだ。

獄寺が思う「山本武」と俺は、別人になってしまっているんだ。
きっと、もう。

それを獄寺に知られたら、どうなるんだろう。
俺はひたすら、それが怖くて仕方なかった。




「うわぁ・・今日あったかいね!」

久しぶりの陽気にツナが目を細めた。
その隣で獄寺が気持ち良さそうに空を仰いでいる。
俺もつられて、優しい水色の空を見上げてみた。


久しぶりに屋上で過ごす昼休み。

ツナの弁当は可愛くて色が綺麗なもの。
俺のは、大きな弁当箱に沢山のおかずとご飯がギュウギュウに詰まってる。
獄寺は購買のパンが2つか3つくらい。
俺とツナはいつも弁当を見せ合いっこしてて。
獄寺が、十代目の勝ちだな、とか言って。
別に勝ち負けとかないからってツナが笑うんだ。

いつもと変わらない昼休み。
だけど。

「十代目・・結果どうでしたか?」

急にかしこまって獄寺がツナに向きあった。

「うん・・一応持ってきた。」

そう言うと、ツナは小さく折り畳まれた紙を拡げてみせた。

「十代目、やりましたね!C判定じゃないですか!」

覗きこんだ獄寺が満面の笑みで嬉しそうな声をあげた。

「ちょっと獄寺君!Cじゃ、まだ喜べないよ〜。」

だけど・・前はEだったもんね。

うろたえながらも、ツナは嬉しそうに再び視線を戻した。

それは高校受験の模擬試験の結果だ。

「俺にも見せて?」

身を乗り出した俺を獄寺が軽く睨んだ。

「お前には関係ないだろ? セコい方法で入学するくせに。」

その場の時間が少しだけ止まったような気がした。

「獄寺君・・推薦入学は別にセコい訳じゃないよ?」

ツナのツッコミに、俺は気にしていない素振りで笑う。


いつもみたいに。




「山本とは高校が違うけどさ、家は近いんだし。 それにこれからも変わらずリボーンが収集かけてくるだろうしさ。」

帰り道にツナがそんな事を呟いた。
俺は、そうだよな〜って笑いながら、軽いバッグをブラブラさせながら歩く。

獄寺は、何も言わなかった。




じゃあね。

十代目、また明日。

軽く手を振り、いつもの別れ道でそれぞれの家へ向かう。


「獄寺。」

ツナの後ろ姿を見送った後、歩き始めた獄寺を呼び止めた。

「何だよ?」

振り返った獄寺の顔は、ツナと別れた時とは全然違う。


「・・もし、俺が野球やってなかったらさ。 同じ高校だったんだろうな。」

どうにもならない事を今、俺は口にしているんだろう。

獄寺の整った顔立ちが少し歪んで。
ああ、俺また獄寺の機嫌を損ねたんだろうな、って後悔した。


「そうだろうな。」


その声に俺は俯いていた顔を上げて、獄寺を見た。

優しい水色だった空が段々とネイビーブルーに変わっていく。
その中で、獄寺の銀色の髪が微かな風でサラサラ揺れながら浮かびあがる。
意地悪に細められたり、睨んでくるエメラルド色の目はそこにない。
空の色と混ざって、まるで綺麗な海のような目で俺を真っ直ぐ見つめている。


俺は何だか苦しくなって、冬の冷たい空気を大きく吸い込んだ。













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あきゅろす。
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